デジタル一眼レフ PENTAX K-1 極私的評価
〈 一風変わった視点から大ざっぱに重箱の隅をつつく 〉
リコーイメージングから登場した待望のフルフレームデジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-1」。入手してから約4か月が経ったので,実際に使ってみての私なりの印象を書き留めておくことにする。
まず前提条件として,私がどのような環境でPENTAX K-1を使っているかを説明する必要があるだろう。
銀塩フィルム時代からLXやMZ-SなどのPENTAX Kマウントのカメラと,F3HPやF5などのNikon Fマウントのカメラを併用してきたこともあって,フルフレームのデジタル一眼レフカメラとしては,Nikon D3,D800E,そして一眼レフではないがミラーレスカメラであるソニーα7Sを使用している。PENTAXのAPS-C一眼レフはK-5 IIsを使用していた。
これらのカメラ同士を比較して評価してみる。何やら数値を測定したり,同じものを撮り比べて画質を比較するのは面倒なので,あくまで私の感覚による極私的評価であることをあらかじめ断っておきたい。
現在使用しているカメラ同士のスペックを比較すると次のようになる。D800Eやα7Sは最新のカメラではないので,とりあえず参考としての比較である。
〔K-1・D800E・α7Sの比較(価格.comのカメラ比較ページより)〕
■ ボディサイズや質量についてあれこれ
スペック比較表(K-1の連写撮影の数値6.5コマ/秒はAPS-Cクロップでの数値であり,フルフレームでは約4.4コマ/秒が正しい)からわかるように,K-1はD800Eとモロに競合する製品である。この2機種に対してα7Sは画素数を控えて高感度での撮影にやや特化しているのと,ボディサイズが小さく,質量も約半分しかない。
実際に手にした感覚も,K-1とD800Eはほとんど同じような重量・ボリューム感である。
私は一眼レフには基本的に縦位置グリップ(バッテリーグリップ)を付けて使用している。縦位置グリップ付きのサイズはD800EよりK-1のほうがわずかに小さいように見えるが,使用していて差は感じない。
縦位置グリップを付けるとカメラはどうしても大きく,重くなってしまう。縦位置グリップ一体型のNikon D3と同じぐらいの大きさになってしまうのだから困ったものだ。横位置で撮影する場合でも,小指まで使ってしっかりカメラを握りたいのだからしかたがない。
縦位置グリップの話を続ける。
私はとてもミーハーなので,カメラは見た目が重要だと考えている。Apple社のMacBookのように,性能には関係のないノートPCの裏側の見た目にまで気を配った設計に魅力を感じるのである。その点で,PENTAXの一眼レフの底面のデザインには,ガッカリさせられることが多い。K-1もその悪しき伝統を引き継いだ底面だった。本ブログに写真を載せるのを控えたくなるほどである。
さらに,PENTAXに限らず,カメラの底面にはCEマーク(EU基準適合マーク)やらFCC認可マーク,シリアルナンバーなどのシールがべたべたと貼られている。日本製のノートPCの底面とまったく同じで見苦しく不快である(あっ,日本製ノートPCは天板やパームレストにもべたべた貼ってあるか)。
実は,縦位置グリップにはそれらの見苦しいさまを隠してくれる効果もあるのだ。
縦位置グリップ「D-BG6」を付けたK-1の底面は,日の当たる日中にカメラを公衆の目にさらしても恥ずかしくないだけの外観となる。
また,D-BG6の側面にはストラップを通す金具が付いている。縦位置グリップを付けたK-1にストラップを通すときは,通常のようにカメラの上部両サイド2カ所にストラップを付けるだけでなく,カメラに向かって左サイド2カ所にストラップを付け,カメラを横向きにぶら下げることもできるようになっている。古い銀塩カメラ時代からPENTAXに引き継がれる伝統だ。めでたしめでたし。
とはいえ,K-1プレミアムデビューキャンペーンの景品として縦位置グリップD-BG6が送られてくるまでは,心配で心配でならなかった。それまで使っていたPENTAX K-5 IIsの縦位置グリップD-BG4などと同様に,縦位置グリップの底面が凹凸のない「のっぺり」とした平板ではないかという不安があったからである。
PENTAX K-5 IIsの縦位置グリップD-BG4の底面は,こんな感じでまったく凹凸のない「のっぺり」とした平面だった。こんなのだったら,たとえ景品でもらった縦位置グリップでも残念無念で三日ぐらい寝込むところだった。
PENTAXの一眼レフの縦位置グリップにはもうひとつ大きな問題がある。「三脚穴の位置」である。縦位置グリップを付けると,三脚穴の位置がレンズ軸から横にずれてしまうのである。
三脚穴の位置がレンズ軸からずれてしまう原因は,PENTAXがK-7の頃から何世代にも渡って使い続けているLi-IonバッテリーD-LI90Pの構造にある。
〔PENTAX Li-IonバッテリーD-LI90P〕
縦位置グリップを外して,バッテリーフォルダーと三脚穴用雌ねじの位置関係を観察すれば,理由は一目瞭然である。縦位置グリップ内部の三脚穴用雌ねじの出っぱりにバッテリーが当たらないようにするためには,バッテリーをグリップ内部においてカメラのボディ側に寄せなければならない。
しかし,Li-IonバッテリーD-LI90Pの4つの電極は上記写真の左上のように,バッテリーの厚み方向の面に付いているため,縦位置グリップのバッテリーフォルダー上面側(ボディの底面側)に,D-LI90Pの4つの電極と接触するバネ構造の電極を設置しなければならないのである。
縦位置グリップ内に,バネ構造の電極,D-LI90Pバッテリー,バッテリーフォルダー,三脚穴用雌ねじを高さ方向に重ねると,縦位置グリップが縦に長くなってしまうため,しかたなく三脚穴用雌ねじをバッテリーと干渉しない位置までずらしている。それがレンズ軸と三脚穴がずれてしまう理由だ。
新しいカメラを買っても,それまで使い続けたバッテリーや充電器が継続して使用できるのは大変嬉しいし,それに関してはメーカーに最大限の賛辞を贈りたい。
〔NikonのLi-IonバッテリーEN-EL15〕
NikonのLi-IonバッテリーEN-EL15のように,バッテリーの肩部に電極を設け,縦位置グリップの内部にはバッテリーの厚み方向の電極を必要としない構造のバッテリーにすれば,三脚穴用雌ねじをずらす必要はなくなる。
参考までにD800Eの縦位置グリップMB-D12の底面の写真を載せて,縦位置グリップの話は終わりたい。
〔Nikon D800Eの縦位置グリップMB-D12の底面〕
■ 第3のダイヤルでとうとう完成した「ハイパー操作系」
ハイパー操作系は,他社カメラを使ってきたユーザーには理解しにくいのと同時に,通常の前後2つのメイン・サブダイヤルだけでは完結しない操作系だった(レンズの絞りリングが使用できる場合を除く)。K-3 IIまでのハイパー操作系では,露出補正のために露出補正ボタンを押しながらダイヤルを回すという,まことに忌まわしい操作が必要だった。
K-1に第3のダイヤル,つまりスマートファンクションと設定ダイヤルが追加され,ハイパープログラム・ハイパーマニュアル時の露出補正もダイヤルひとつを回すだけで済むようになった。まさに「ハイパー操作系」の完成である。
ハイパープログラム・ハイパーマニュアルを使う限り,D800Eやα7S,世の中のその他のカメラのように,絞り優先AEやシャッター速度優先AE,プログラムAEをいちいちモードダイヤルを回して設定する必要はないし,マニュアル露出時に前後のダイヤルをカチカチ回して露出を調整する必要もない。
撮影時の露出調整のしやすさに関しては,K-1=圧勝,D800E=旧態依然,α7S=まるでダメ男という印象だ。
この件に関しては,2015年11月26日に『PENTAXのハイパー操作系がとうとう完成へ』という記事を書いているので,そちらを読んでほしい。
■ シャッターボタンとシャッター回り
K-1のシャッターボタンが,K-5 IIsやK-3のようなクリック感のあるタイプではなく,PENTAX 645ZやNikon D800EやD3その他のD一桁機のように,クリック感のないタイプになったことを祝って祝杯をあげようではないか!(参考:2016年3月23日『K-1のシャッターボタンはクリック感なし!』)
K-1やD800Eのシャッターボタンのレリーズ感覚は滑らかで,半押しからゆっくり全押しするまでに何の引っかかりもクリック感もなく,すぅ〜っとレリーズに至る。とても上品だ。
シャッターボタン半押し位置から全押し位置までのストロークは,K-1のほうがD800Eよりも若干大きめに感じた。D800Eの短いストロークに慣れているためか,シャッターボタンを半押ししたまま続けてシャッターを切ろうとすると,シャッターボタンが半押し状態まで戻っていないため,全押ししてもシャッターが切れないことが何度もあった。この点については慣れが解決してくれるかもしれない。サービスセンターなどへの持ち込みで,ストロークの調整をしてくれるのならそれに越したことはない。
それに対してα7Sのシャッターボタンは,クリック感がないのは良いのだが,シャッターボタン動作の軸外方向に微妙なガタがあって,レリーズする瞬間にシャッターボタンがグニっと横にずれる感覚がある。今までにたくさんのカメラを使ってきたが,過去に経験したことがない安っぽさである。
α7Sには「サイレント撮影モード」という最強の撮影モードがある。シャッター音を“完全に無音”にできるのである。こればかりは一眼レフカメラにはマネできない。
K-1とD800Eのシャッター音はかなり大きい。PENTAXのK-5 IIsのシャッター音はとても小さく,柔らかい感じだったが,それに比べるとK-1のシャッター音はメカニカルな感じで甲高く大きい。D800Eのシャッター音も大きく,やや緩んだバネのような音(たぶん制振部材かな)が混じる。後継機のD810では静音化,ショックの低減が図られていてうらやましい。
光学ファインダー周りはK-1とD800Eで互角と言いたいところだが,残念ながらK-1はスクリーンの交換ができない。スクリーン交換ができなくても,透過型液晶による構図用9分割グリッド表示はできる。しかし,9分割グリッドは写真の水平を取るためにはあまり役に立たないため(9分割グリッド表示が水平を取るために役立たないことは別記事にまとめてある),D800Eのような16分割グリッド表示,もしくは25分割グリッド表示がほしかったところだ。
α7SはEVFであるため,25分割グリッド表示が可能だ。ただし,光学ファインダーのグリッドと違ってグリッド線が太くてじゃまくさい感じがする。
写真の水平を確認するための16分割グリッド表示ができないK-1ではあるが,良い写真には水平が重要だと考えるユーザーへの最強の助っ人「自動水平補正機能」が付いている。被写体をグリッド線に合わせて水平・垂直を確認したりせず,全体の構図やピントなど他のことに注意を集中させながらでも,カメラが自動的に水平を出してくれる機能である。9分割グリッド表示しかできないK-1の弱点を補って余りある機能だ。
■ レリーズタイムラグ
シャッター周りで重要なレリーズタイムラグは下表の通りである(データは「IMAGING RESOURCE」のサイトから)。
PENTAX K-1 | Nikon D800E | SONY α7S | |
Shutter Response | 0.086 sec | 0.043 sec | 0.024 sec |
Shot to shot | <0.30 sec | 0.42 sec | 0.53 sec |
ここで,Shutter Responseはシャッターボタン半押しでAFロック後,シャッターボタンを全押ししてからシャッターが切れるまでの時間(つまりレリーズタイムラグ)である。Shot to shotは,単写モードでLargeサイズのJPEGで写真を撮った後,次にシャッターが切れるまでに掛かる時間の平均値である。
K-1はPENTAXの一眼レフにしてはレリーズタイムラグが短いと言われていたが,レリーズタイムラグは0.086秒であり,あまり速くなっていない。0.065秒ぐらいになっていることを期待していたので,ちょっと残念な結果である。
同じシャッター速度での光学ファインダーのブラックアウト時間は,K-1のほうがD800Eよりもほんの少しだけ長いように感じられる。
レリーズタイムラグに関しては,やはり電子先幕シャッターが使えるα7Sが断然有利である。一眼レフカメラはどうしてもミラーアップする時間が必要になるため限界がある。
α7Sで電子先幕シャッターをOFFにすると,レリーズタイムラグは0.168秒になってしまうので注意が必要である。
Shot to shotの数値は,街を歩きながら,通りかかる人や車を避けて町並みを撮影するときにはとても重要になる。写真を1枚撮った直後にそれを上回るシャッターチャンスがやってきたときに,自由なタイミングですぐに次の写真が撮れるかどうかを表す数値だからである。
一般的にコンパクトデジカメはこのShot to shotの数値が大きく,狙ったタイミングでシャッターボタンを押しても,思い通りにシャッターが切れないという事態が発生しやすい。
たとえば,Canonの高級コンパクトデジカメ G1 X Mark II のShot to shot timeは,Large Fine JPEG時に1.01秒,RAW時には1.14秒,83倍ズームを誇るNikonの P900 のShot to shot timeはLarge Fine JPEG時に1.36秒もある。連写モードでは1秒間に約7コマも撮影できることをウリにしているカメラでも,1枚撮った後は1.36秒も待たないと,次のシャッターが切れないのだ。
その点でK-1の0.3秒以下というのは,ほぼ思い通りのタイミングでシャッターが切れるということになる。今まで普通に商店街や町並みを撮影していて,D800Eで思い通りにシャッターが切れなかったという記憶はなく,α7Sでは何度か経験したことを覚えている。Shot to shot timeが1秒以上あるコンパクトデジカメでは何度も経験している。もちろん他の要因が重なった可能性もあるので,断定的することはできないが,私の使い方だと0.5秒あたりに感覚の閾値があるのかもしれない。
■ 画質について
私はRAW現像などという面倒なことが嫌いなので,よほど明暗差の大きなところでなければJPEGオンリーで撮影している。そして,K-1のJPEG画質には満足している。
他のデジカメとは比較にならないほど絵のカスタマイズが可能なので,ダイナミックレンジ拡張のハイライト補正・シャドー補正の他に,大ざっぱにいうとコントラスト低め,暗部持ち上げの設定をかなり強めにかけている(他の人にはお薦めしない)。
K-1のダイナミックレンジは広く,撮ったJPEGデータの暗部をさらに持ち上げても,ノイズまみれになることはない。超高感度撮影では,ISO感度100〜204800のK-1よりも,ISO50〜409600(拡張時)が可能なα7Sのほうが優れていることになるが,α7Sの低感度でのダイナミックレンジは意外なことにK-5 IIsよりも狭く,撮った写真の暗部を大きく持ち上げると,ガッカリするほどノイズだらけになる。
通常感度での画質は,K-1>D800E>α7Sの順番になる印象だ。
■ 話題のフレキシブルチルト液晶について
K-1で三脚を使っての撮影を行っていないので,フレキシブルチルト液晶の真価は不明。液晶を上に向けると,ウエストレベルでの撮影が簡単にできるのは便利だ。ただし,シャッターボタンがボディ上面(軍艦部)ではなく,前方に傾いたグリップ上部に付いているため,ウエストレベル撮影のときに右手親指でシャッターボタンを押しにくい。ISOボタンをシャッター代わりに使えるようにカスタマイズできれば,なお便利になるだろう。
α7Sでもウエストレベル撮影はできることになっているのだが,EVFと液晶ディスプレイとの自動切り替えの感度設定が悪く,ウエストレベルでは腹部の赤外線などを検知して勝手にEVFに切り替わってしまい,残念ながらまともに撮影できない。設定メニューでEVFと液晶ディスプレイを切り替えることはできるが,機動性に欠ける。
■ 簡単なまとめ
【K-1の良かった点】
・3ダイヤルで完成したハイパー操作系
・がっちりした防塵防滴ボディ
・高画質
・高ISO感度
・広いダイナミックレンジ
・歪みの少ない光学ファインダー
・旧機種と共通のバッテリー
・自動水平補正機能
・高いカスタマイズ性
・APS-C用のDAレンズでも十分な画素数
【K-1の残念な点】
・デフォルトのJPEG画像がシャキッとしない
・16分割・25分割グリッドのスクリーンがない
・機能詰め込みすぎで質量増大
・レリーズタイムラグが0.086秒と大きめ
・(D800Eに比べると)バッテリーの持ちが悪い
・Wi-Fi接続アプリが非常に使いにくい
・K/Mレンズの絞り値情報を伝達するレバー復活せず
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コメント
ごめんなさい、過去記事を読んでいなかったようで把握していなかったのですが、絞り連動レバーは復活しなかったのですか…。縦位置グリップを付けた場合、感覚的な大きさがE800と変わらないというのも残念なところです。
ただ、縦位置グリップにストラップ穴が付いているというのは、PENTAX LXやPENTAX 6x7を使っている感覚で、評価できますね。他の項目についてはノーコメントで。(笑)
投稿: 魚籃坂 | 2016年9月11日 18時39分
絞り値連動(絞り値伝達)レバーは復活しませんでした。デジタル一眼レフカメラにレバーが復活することはなさそうです。残念です。
投稿: 三日画師 | 2016年9月12日 23時01分