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2016年7月26日

「住みよさランキング1位」の印西市は本当に住みやすいのか?

2016

 東洋経済新報社が全国の都市を対象にして毎年発表している「住みよさランキング」。2016年の総合評価1位は千葉県印西市,2位が愛知県長久手市,3位が富山県砺波市となっている。印西市は5年連続の1位である。

 私は全国各地の都市を見て歩いているが,このランキングが今ひとつぴんとこない。本当に印西市や長久手市は住みやすいのだろうか。
 どこからどう見ても大都市近郊のニュータウンである印西市や長久手市,名取市,守谷市,つくば市等々と,全国でも持ち家比率・一戸建て住宅比率が高いことで知られる北陸地方の都市が上位に並んでいる。ランキングの算出方法に偏りはないのだろうか?

 印西市は千葉県北西部に位置する人口約9万4千人の都市である。私が印西市を初めて知ったのは,県立印旛高校が選抜高校野球に出場したときのTV中継での学校紹介である。当時はまだ市制施行前で小さな印旛郡印西町だったが,既に千葉ニュータウンの開発が始まっていて,将来は30万人の都市になる計画だと紹介されて驚いた記憶が残っている。なにしろ地図を見ても印旛沼や手賀沼の周囲の田んぼと,うっそうとした森が広がり,その中にゴルフ場があるだけの町で,ニュータウン計画が夢物語のように感じたからである。

 その後計画は大幅に縮小されて現在に至る。千葉県などが抱え込んだ千葉ニュータウンの赤字額は巨額であり,最終的には税金で穴埋めが行われるのかどうか,千葉県の方は気になるところだと思われる。

Photo
〔印西市の千葉ニュータウン中央駅付近(Googleマップ)〕

 さて,印西市は本当に住みやすいのだろうか?

 東洋経済新報社の「住みよさランキング」は,公的統計をもとにして都市の魅力を「安心度」「利便度」「快適度」「富裕度」「住居水準充実度」の5つの観点に分類,15指標についてそれぞれ偏差値を算出し,その単純平均を総合評価としてランキングしたものだという。

 詳細な指標については東洋経済オンラインに記されているのでそれを参照していただくことにして,自分がそこに住みたいかどうかを基準にして,ランキングとそれに使用された指標を見てみる。

■ 印西市が「住みよさランキング」上位になっている理由

 まず,印西市が全国で3位に入っている「利便度」に着目する。

 利便度は,小売業年間商品販売額(人口当たり)と大型小売店店舗面積(人口当たり)の2つの指標で計算されている。しかし,生活圏の広域化に対応するため,他都市の20%通勤圏となっている市については,利便度の指標については通勤先となっている都市と指標を比較し,高いほうの数値を採用することとなっている。
 印西市は東京区部への通勤率が24.2%になるため,小売業年間商品販売額については東京区部の数値が使われることになる。同時に,印西市は郊外に位置しているため,大型の商業施設が多く,もうひとつの指標である人口当たりの大型小売店店舗面積はもともと大きい。

 大都市の中心部ほど有利になる小売業年間商品販売額と,郊外の大型商業施設立地都市ほど有利になる大型小売店店舗面積という指標のいいとこ取りができ,大都市郊外の都市に有利になりすぎる補正が行われていると考える。

 印西市民が東京区部に買物に行くのと,東京区部から郊外の印西市の大型商業施設に買物に行くのには同じ手間と時間が掛かるのだから,小売業年間商品販売額と大型小売店店舗面積で計算される「利便度」は,大都市や中核都市とその郊外の都市で同じにならなければならない。むしろ,最寄り駅周辺に商業施設が集中している大都市のほうが,徒歩で買物に行ける分だけ「利便度」が高くなってもいいはずだ。印西市に大型商業施設が多いといっても,徒歩で気楽に買物に行ける距離ではない。
 つまり,大都市近郊の都市の「利便度」が高いのは,この「いいとこ取りの補正」のためだと思われる。

「快適度」は,汚水処理人口普及率,人口当たり都市公園面積,転入・転出人口比率,世帯当たり新設住宅着工戸数で算出されている。この指標についても,特に転入・転出人口比率,新設住宅着工戸数は宅地化が進行中の郊外で高くなり,既に都市化した都市中心部のほうが低めに出る。

 また,自分がどこに住みたいかを考えたときに,真っ先に考えるのは通勤時間と通勤手段であるが,「住みよさランキング」算出に使われる指標には含まれていない。印西市は東京区部への通勤率が24.2%と高いが,もっとも東京に近い千葉ニュータウン中央駅からは東京まで1時間も掛かる。しかも,千葉ニュータウンの開発が計画通りに進まなかったこともあって,北総鉄道北総線の運賃は非常に高いことで知られる。6か月定期は20万円を軽く越えるはずだ。
 北総線のあまりの運賃の高さに千葉ニュータウンの住民から悲鳴が上がり,住民主導で北総線に平行するバス「ちばにう」が運行されていることでも有名だ。
 通勤時間と通勤手段が算出基準に含まれない「住みよさランキング」には疑問がある。

■ 北陸地方の都市が上位に並ぶ理由

 次に,ランキング上位に北陸地方の都市が多いことについて考えてみる。

 砺波市,野々市市,坂井市,鯖江市,かほく市,能美市,魚津市,滑川市,これらはいずれも富山県,石川県,福井県の中心都市ではなく,その周辺にある衛星都市である。滑川市は富山市の20%通勤圏であり,野々市市,かほく市は金沢市の20%通勤圏,坂井市,鯖江市は福井市の20%通勤圏である。これらの都市は,印西市のところでも述べた,「いいとこ取りの補正」の影響があると考えられる。

 たとえば,鯖江市は2010年の国勢調査のデータで福井市の20%通勤圏となったため,2013年の調査では前年の54位から一気に8位にランクアップしている(そして2016年は6位に)。これは鯖江市が突然住みやすくなったわけではなく,単に「いいとこ取りの補正」が行われるようになったためである。

 それに加えて,北陸地方の都市は全国でも持ち家比率・一戸建て住宅比率が高いことが,かなり有利に働いていると思われる。「住居水準充実度」は,1住宅当たりの住宅延べ面積とも持ち家世帯比率で算出される。北陸地方は,確かに屋敷林のある大きな一戸建て住宅が多いという印象はある。

 しかし,一世帯当たりの平均人員も考慮すべきではないだろうか。1住宅当たりの住宅延べ面積が広くても,二世帯住宅,三世帯住宅であれば,一世帯当たりの可住面積は狭くなる。

 手元には都道府県別のデータしか見つからないが,一世帯当たりの人員は,多いほうから,山形県,福井県,佐賀県,富山県,岐阜県となっている。北陸地方は住宅は大きいが,一世帯当たりの人員も多いのである。核家族化が進んだ東京都,大阪府,神奈川県と比較する場合は,1住宅当たりの住宅延べ面積ではなく,一人当たりの住宅延べ面積で比較すべきだと考える。

 公的統計にはデータが存在しないのかもしれないが,「住みよさランキング」に使用されていない指標でも,コンビニエンスストアまでの平均距離,人口当たりのコンビニエンスストア数,人口当たりの銀行・信用金庫数,郵便局数,最寄り駅・バス停までの距離,1時間当たりの列車・バス本数,真夏や真冬の気温,降雪量(雪かき,雪下ろしが必要な地域は住みやすいとは言えないはず)など,住みよさを決めるのに必要な指標は多い。

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コメント

当方千葉県人です。
しかし印西が住みやすいって.....
聞いたことないですね。町は新しいし緑は多いですが不便。自分なら住もうと思わないですね。

投稿: 猫めん | 2016年8月 9日 15時25分

 ですよね。自分で住みたいかどうかを基準にすれば,印西市を選ばない気がします。ブログには書きませんでしたが,正直なところ住宅を売る側の立場でのランキングに感じました。

投稿: 三日画師 | 2016年8月10日 18時56分

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