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2016年3月10日

ゼットンの“1兆℃”の火球で地球は蒸発するか

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〔Googleで画像検索した「ゼットン」〕

 ウルトラマンに出てくる「ゼットン」の放つ火球が本当に“1兆℃”だとすると,地球は一瞬で蒸発し,太陽もその熱を受けて爆発する……というツイートがリツイートされてきた。

 もともとが子供向けのフィクションだし,地球が蒸発するという話もジョークならばいいが,「本当に1兆℃だった場合を科学的に考察する」という話ならば,直感的に「そりゃウソだろ」と感じないのはマズい気がする。

 放射性セシウムの食品全量調査における100ベクレル/kg程度の食品での健康被害を心配したり,あるいは精製した食塩は身体に悪く,NaCl以外のミネラル分が多い天日塩・自然塩が健康的だと思い込んだり(日本で食塩として売られている製品はNaClが97%以上と決められているので,天日塩・自然塩によってミネラルを有意に摂取したら,その時点で塩分の摂り過ぎ)……これらのいずれにも共通するのは,「量」の概念がないことである。

 要は,地球の熱容量の大きさと,ゼットンの火球の熱容量の大きさの違いが,直感的に頭の中に浮かぶかどうかである。

 簡単な計算をしてみよう。

 中学校か高校の1年ぐらいで「熱量保存則」というのを習う。ビーカーに入った25℃の水の中に,熱した50℃の鉄球を入れたとき水温は何℃になるか,という問題を覚えているひとも多いだろう。
 温度の高い物体と低い物体を合わせると,熱が高温側から低温側へ移る。十分に時間が経過すると,2つの物体の温度は等しくなる(=熱平衡状態)。このとき,低温の物体が得た熱量Qinと高温の物体が失った熱量Qoutは等しくなる。

 Qin = Qout

 これを熱量保存則という。

 質量m,比熱cの物体の温度がΔt上昇したときに得た熱量Qは,

 Q = mcΔt

で表される。

 地球の質量をm1[kg],比熱をc1[J/(kgK)],温度をt1[K],
 ゼットンの火球の質量をm2[kg],比熱をc2[J/(kgK)],温度をt2[K],
 地球と火球が一緒になって熱平衡状態になったときの温度をt[K]とすると,低温の地球が得た熱量Qinと高温の火球が失った熱量Qoutは等しいから,

 m1c1(t - t1) = m2c2(t2 - t) …………〔式1〕

が成り立つ。

 ここで,地球の質量 m1 = 5.97 x 10^24 [kg] とする。
 地球の比熱c1は簡単には求まらないが,地球全体の化学組成は多いほうから,鉄32%・酸素30%・ケイ素15%,マグネシウム14%,硫黄3%なので,鉄の酸化物からなるヘマタイト(赤鉄鉱)で地球全体ができていると仮定する。ヘマタイトの比熱 c1 = 990 [J/kgK] とする。
 地球の温度を何℃にするかも難しいところだ。中心部は6000℃ぐらいある。しかし,ここでの主眼は火球から熱をもらったときに何℃ぐらい温度が上昇するかということなので,感覚的にわかりやすい t1 = 25 [℃] = 298.15 [K] とする。

 火球はプラズマと仮定するのが良さそうだが,あいにくプラズマのデータを持っていない。気体は温度によって比質量や比熱が変わる。とりあえず常温の酸素のデータを使い,大きさは1立方m,質量 m2 = 1.0 [kg],比熱 c2 = 920 [J/kgK] とする。
 火球の温度はもちろん1兆℃ = 1000000000273.15 [K] である。

 有効数字はバラバラだが,これらを式1に入れて平衡温度tを計算すると,

 5.97e24 * 990.0 * (t - 298.15) = 1 * 920.0 * (1000000000273.15 - t)
 t = 298.15 [K] = 25.0 [℃]

となる。つまり,地球の温度は0.01℃も上がらない。地球の熱容量(=質量×比熱)が非常に大きいため,たとえ1兆℃もの高温であったとしても,1立方m程度の火球の影響はほとんど受けないのである。

 それでは,1立方mの火球が何℃だったら地球の温度が 0.01℃上昇するのだろうか。

 5.97e24 * 990.0 * (298.16 - 298.15) = 1 * 920.0 * (t - 298.16)
 t = 64242391304654576156672

となった。火球の温度が 1000000000000の6.4 × 10^10倍,1兆℃の640億倍の温度だと地球の温度は 0.01℃上昇することになる。逆に言えば1兆℃の640億倍でも,地球は25.01℃にしかならない。

 地球にしてみれば,640億匹のゼットンが一斉に放つ火球よりも,温室効果ガスを排出する人間のほうがよっぽど怖いようだ。

Photo_2

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コメント

「地球が一瞬で蒸発」というのはY田理科雄さんの本ですね。このシリーズは楽しい本なんですが著者ご本人も含めて計算ミスや間違いが山のようにあるとつっこまれています。いわゆるオカルトじみた本ではないのですが本を鵜呑みにするのは危険ということですね。

投稿: 猫めん | 2016年8月12日 17時28分

 なるほど,ネタ本があるのですね。ググったら明治大学理工学部の講師をされている方なのに,残念ですね。

投稿: 三日画師 | 2016年8月13日 15時58分

某慣性の法則すら無視するトンデモ本はNG

投稿: | 2019年2月20日 22時37分

ある程度以上の温度を持つ熱源のエネルギーは、温度の四乗に比例するとかいう説明がなされてました(だとすると普通の計算は成り立たないと思われる)。
そこらへん、どうなんでしょ?

投稿: あ | 2020年1月19日 18時14分

ちょっと長くなります。
放射(輻射)するエネルギーが表面温度の4乗に比例するのは,ある程度以上の温度を持つ熱源に限らず,基本的にはすべての物体にあてはまります。
t1(K)の高温物体からt2(K)の低温物体への輻射エネルギーqは,
q = εFσA (t1^4 - t2^4) となります。
ε:輻射率
F:形態係数
σ:ステファンボルツマン係数
A:表面積

柳田理科雄氏の計算の間違いは,火球を1兆℃の定常温度(温度一定)としたことです。つまり火球の熱容量を無限大としてしまっています。

「100℃の鉄球を25℃の水に入れたら水は何℃になるか。鉄と水の質量と比熱は※※とする」という熱量保存則は中学校の理科で習うと思います。
100℃の鉄球を25℃の水に入れたら水の温度は上昇し,鉄球は水にエネルギーを渡して徐々に温度が下がり,ある温度で水と鉄球の温度は定常温度に達します。

鉄球の温度を100℃で一定(つまり熱容量無限大)にしてしまったら,水の温度は100℃まで上昇します。鉄球から水にエネルギーが移動しても鉄球の温度が100℃のままということは,鉄球にどこからかエネルギーが供給され続けていることになるからです。たとえば鉄球内部にヒーターが設置されていなければ,そんなことにはなりません。

柳田理科雄氏は火球の温度を1兆℃固定にして計算してしまったため,火球の周囲の温度がどんどん1兆℃に近づくまで上昇するという計算になっています。

実際は,火球から周囲にエネルギーが放射されるため,火球の温度はどんどん下がってしまい,あっという間に地球の地面の温度に近づきます。火球より地球の熱容量が圧倒的に大きいため,地球の温度はほとんど変わらず,火球は地球の温度と同じなってしまうわけです。

100℃の米粒ほどの鉄球を25℃のコップの水の中に入れたら水温は何℃上昇すると思いますか。たぶん25℃のままだと思いますよ。

投稿: 三日画師 | 2020年1月19日 23時17分

おろろろ?この動画と全く違う結果に?
https://youtu.be/UBQNW09qQ6A

投稿: 舌呑 | 2020年1月25日 06時32分

動画を見ましたけど,やっぱり火球が周囲にエネルギーを放出しても1兆℃の温度を保つとして計算してますよね。

米粒ほどの大きさで常に100℃の温度を保つ鉄球などというものがあったら,それがあるだけでコップの水を何杯でも沸かし放題ですね。実際にはあり得ません。「周囲の天体を溶かし蒸発させながらも1兆℃の温度を保つ火球」という前提なら,どんなにシミュレーションの精度を上げても正しい答えは出てきません。

地球上に1兆℃の火球があったら,火球からの放射エネルギーによってその周囲の地面温度を一瞬で上昇させます。表面は簡単に融けるでしょうね。地面の気化潜熱が不明ですが蒸発もするでしょう。放射エネルギーは表面温度の4乗に比例しますからね。

でも影響があるのは小さな山一つか二つぐらいじゃないですか。それが地球の裏側までは影響しません。オーストラリアで大規模な山火事が発生していますが,その火の影響で日本の気温は変わらないですよね。

投稿: 三日画師 | 2020年1月25日 07時49分

ちなみに〔式1〕の地球の質量の数値をいろいろ変えてみると火球のエネルギーの大きさがつかみやすいかもしれません。

たとえばタイタニック号の質量は26000トンですので,

26000000000 * 990.0 * (t - 298.15) = 1 * 920.0 * (1000000000273.15 - t)

t ≃ 333.892K ≃ 60.7℃

ゼットンの1兆℃の火球はタイタニック号の温度を
25℃から60℃に上げる程度のエネルギーを持っていることになります。

投稿: 三日画師 | 2020年1月25日 09時53分

例えば、真空中で1分間1兆℃で燃焼し続ける能力があるとしたらどうなりますか。

投稿: | 2020年2月15日 00時49分

あるYouTubeの動画では、一兆度の火の玉を恒星に置き換えて計算してました。すると柳田理科雄氏とほぼ同じ結果になりました。もしかしたら柳田氏も恒星をベースに計算したのかも知れませんね。
しかし恒星を直径1mまで縮めてしまうとブラックホールになってしまうので、ウルトラマンはやけど程度ではすまないと思います。

投稿: | 2020年6月16日 00時01分

ひとつ質問いいですか?
直径1m熱さ一兆度の火球が10秒間燃え続けた場合、その質量と放出エネルギーはどれ程になりますか?
そしてウルトラマンは勝てますか?

投稿: | 2020年6月16日 00時34分

柳田氏の解釈としてはゼットンの火の玉は単に1兆度を与えられた熱媒体ではなく、なんらかの反応により一定時間1兆度を維持する物体であり、そもそもの解釈が違うので比較はできない
柳田氏は著作において複数の解釈があれば面白さを優先して選択することにしていると語っている

それと3万tのゼットンが1kgの酸素を熱媒体にしているという仮定は流石にどうなんでしょうか?
体重60kgの人間にとっての0.002gですが、「直感的に」おかしいと感じませんでしたか?

投稿: | 2020年8月21日 21時50分

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