木津川市と笠置町との複雑すぎる境界
京都府が公表した2015年国勢調査の速報値を読んだ。大阪への通勤・通学に便利な京都府南部の京都市,長岡京市,京田辺市,木津川市,大山崎町,精華町の4市2町だけが人口増加で,それ以外は人口が大きく減少。京都市内でも全11区のうち6区で人口減少,伏見区,北区,西京区は人口減少が大きい。
人口減少率が最も大きかったのは笠置町の15.8%で,南山城村が13.8%,伊根町が12.4%,和束町が11.7%と続いた……と言うところまで読んで,府内でも人口が増加している木津川市と人口減少率が最悪の笠置町が隣り合っていることを思い出した。
木津川市加茂町と笠置町は境界が接しているだけでなく,加茂駅と笠置駅は関西本線上の隣同士の駅である。
どこでこのような差が出てしまったのだろうと思いながら,地図を広げてみた。
木津川市と笠置町は京都府の南部にあり,地図の一番上の部分を流れている木津川は,右側の笠置町から左の木津川市方向に流れている。木津川に沿って関西本線が通っており,地図の右端に笠置駅がある。木津川市加茂町の加茂駅は地図の左端よりも画面半分ぐらい先にある。
この地図を見て,真っ先に気付くのは,木津川市内東部にイカやタコの足のように複雑に延びる笠置町の飛び地である。地図をよく見る人ならば,全国に不思議な飛び地が存在していることは理解できると思うが,このように複雑な飛び地はとても珍しい。
この木津川市加茂町と笠置町の境界の飛び地の周辺は,四ヶ村山と呼ばれる入会地で,4つの村の入会地(共有地)として,樹木を伐採したり,屋根を葺くカヤを採集したり,木の葉や草を集めて肥料にしていたりしたという。ここまでは全国どこにでもある状況だった。
明治時代に市町村制が施行され,入会地は市町村に属すことになった。江戸時代中期から入会地の一部は私有地として認められていたため,4つの村の入会地はそれぞれ私有地を所有する者の居住地を基準に加茂と笠置に振り分けられた。それが複雑で奇妙な境界ができた原因である。
複雑な境界部分をもう少し拡大した地図を表示してみる。
複雑な形の境界線は木津川市加茂町と笠置町の間にだけ存在するのではなく,加茂町内の地区の地区の境界にも残っていることがわかる。
いずれも,針葉樹や広葉樹の森に入り組んだ谷戸に谷戸田と段々畑が広がる様は,日本の農業の原点を見られそうな地域である。
さて,そのような関係のある笠置町の笠置駅と木津川市加茂町の加茂駅は,関西本線の駅も隣同士である。しかし,国鉄時代は同じような位置づけの両駅だったが,国鉄の分割民営化で管轄がJR西日本となり,加茂駅までの関西本線が電化されて大阪近郊路線のアーバンネットワークの範囲に含まれ,隣の笠置駅は含まれずに関西本線が非電化ローカル線となったことから,その後の位置づけが大きく変わった。
〔関西本線加茂駅〕
加茂駅は大阪近郊路線アーバンネットワークのターミナル駅となっており,日中でも1時間あたり2本の(ラッシュ時には3本から4本)の大阪行き大和路快速(4〜8両編成)が発着する。加茂駅から大阪駅までの所要時間は1時間15分。首都圏のサラリーマンのイメージで言えば,便利な通勤圏である。
〔関西本線笠置駅〕
加茂駅から笠置駅,そして三重県亀山(JR東海)までの関西本線のJR西日本管理区間は非電化単線のまま放置されている。列車の本数は日中1時間あたり1本。2両編成のディーゼルカーが走る。
かつては奈良方面への笠置駅発着の列車が設定されていたり,行楽期には急行列車や準急列車が臨時停車していたそうだが,現在は駅舎や跨線橋に栄華の香りを残すローカル駅である。
京都府でも数少ない人口増加都市の木津川市加茂町と,京都府で最大の人口減少地帯である笠置町が並んでいて,鉄道の駅も一駅違い。まさに紙一重だ。運命の神様は無慈悲でいらっしゃる。
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