市街地の大きな町と小さな市(国土地理院地形図で比較)
ゴールデンウィークに富山県の福光町(現南砺市の一部)を訪問したときに,人口約2万人という町の規模に比べて,大きな商店街や古い家並みが密集しているのをみて,市場町として栄えた福光町の力強さを感じた。
〔福光町のハミングロード東町商店街から福光大橋を見る(2013年5月)〕
私が歩いてみたいと思っている町は,ロードサイドショップが並ぶ都市郊外ではなく,住宅地でもなく,商店が密集した繁華街なのだ。既に寂れてしまって繁華街とは言えなくなったとしても,そこにかつての繁栄の名残が感じられる町なのである。
そういう町をGoogleマップで探すのは難しい。Googleマップでは,都市の郊外と中心市街地を区別しにくいからだ。町の成り立ちや歴史を知るためには,国土地理院の地形図が最適だと思う。下にたくさんの国土地理院地形図を並べるが,家屋が密集した中心市街地は灰色の網掛け(ハッチング)で表示されており,郊外の住宅地は独立建物として黒い小さな四角形で表示される。街路に沿って大きく黒く塗りつぶされたところにも古い商店街が並んでいることもあり,中心市街地は灰色の網掛けと街路に沿った黒い塗りつぶしで判別することができる。
ということで,今まで歩いたことのある町や,歩いてみたいと思っている町の中から,中心市街地の大きな町と,それに比べて中心市街地が小さい,あるいは見当たらない市の地図を,順番に並べてみようと思う。順番は何らかの指標によるものではなく,あくまで恣意的なもの。現在の面積や人口,人口密度を併記し,都市の中心市街地の規模と人口がほとんど無関係であり,人口によって町の大きさを説明することの無意味さを示してみたい。
まずは,比較のために,横浜市郊外の拠点でもある上大岡,戸塚,たまプラーザの地図から。
(地図は国土地理院の地形図を表示した画面のハードコピーなので,同縮尺である)
〔横浜市港南区上大岡〕
面積: 19.87km2
総人口: 218,572人
人口密度:11,000人/km2
現在住んでいる横浜市港南区で最大の繁華街である上大岡の地図。
周辺の丘陵部にまで住宅地が広がっているが,市街地は大岡川沿いの旧鎌倉街道の周辺にある。
〔横浜市戸塚区戸塚〕
面積: 35.81km2
総人口: 273,992人
人口密度:7,650人/km2
私の通勤経路にある横浜市戸塚区の戸塚。東海道の五番目の宿場町戸塚宿があった戸塚駅周辺に市街地がある。東側には谷戸田が残る舞岡公園もあり,意外に市街地は大きくない。
〔横浜市青葉区たまプラーザ〕
面積: 35.14km2
総人口: 307,693人
人口密度:8,760人/km2
横浜市北部で人気のある青葉区たまプラーザ駅周辺。基本的には住宅地なので,びっしりと住宅地が広がり,市街地と呼べるところはほとんどない。
以上,横浜市内の三つの市街地の地図を見た。たまプラーザは青葉区の中心ではないが,上大岡と戸塚はそれぞれ人口20万人から30万人近い区の中心になっている市街地である。
あれっ,意外に市街地が小さいぞ……と感じたのではないだろうか。
〔長野県下諏訪町〕
面積: 66.90km2
総人口: 21,000人
人口密度:314人/km2
まず,横浜市の拠点市街地に挑戦するのは,長野県の下諏訪町。諏訪湖の湖岸にあり,諏訪大社下社(御柱祭),下諏訪温泉,そして精密機械工業があり,文化に溢れる町である。人口わずか約2万人の下諏訪町の市街地は大きく,横浜市の3拠点の大きさを上回っているように見える。
〔北海道美幌町〕
面積: 438.36km2
総人口: 21,087人
人口密度:48.1人/km2
次は北海道の美幌町。北海道の都市らしく,碁盤の目のような街づくりで,郊外に拡散することなく,中心市街地に家が集まっている。かつては美幌駅から市街地を通って南側に国鉄相生線が延びていて,市街地内に旭通・上美幌という二つの駅があったことも,街がコンパクトなまま大きくなった原因かもしれない(言葉でうまく表現できていないが)。
一般的に,北海道の都市は家屋が中心部に集中していることが多いため,人口に比べて市街地が大きいという特徴がある。
〔福井県三国町(現在は坂井市の一部)〕
面積: 46.42km2
総人口: 22,935人
人口密度:497人/km2
現在は坂井市の一部になってしまったが,三国町は九頭竜川の河口の港町である。かつては三津七湊のひとつとして,日本海交易で栄えたところであり,その繁栄の名残が河口から三国神社まで延びる大きな市街地に見える。
〔岐阜県笠松町〕
面積: 10.36km2
総人口: 22,836人
人口密度:2,200人/km2
木曽川沿いにあり,名古屋と岐阜を結ぶ交通の要衝として栄えた町で。江戸幕府の直轄地として置かれた笠松陣屋は,廃藩置県で笠松県庁,そして一時は岐阜県庁として使われた。
〔北海道岩内町〕
面積: 70.63km2
総人口: 14,287人
人口密度:202人/km2
この人口約1万4千人の岩内町の市街地の大きさに驚いてほしい。1954年の火事は洞爺丸台風による強風により大火となり,市街の8割・3298戸が焼失する岩内大火となった。また,国鉄岩内線が岩内駅まで通っていたが,1985年に廃止となるなど,かつては2万人を超えた人口が,今では約1万4千人。
〔和歌山県湯浅町〕
面積: 20.80km2
総人口: 12,741人
人口密度:613人/km2
和歌山県の湯浅町。紀州藩の保護を受けて醸造業(醤油)が発達した町である。柑橘類の生産量も多く,それらは湯浅港から全国に運ばれたという。道路が拡張されていない市街地には伝統的な家並みが多そうだ。
〔北海道中標津町〕
面積: 684.98km2
総人口: 24,208人
人口密度:35.3人/km2
北海道の中標津町。一帯は酪農と農業が盛んで,中標津はその集散地となっており,雪印乳業の工場や,乳製品を作る工場も多い。平成に入り,人口が大幅に減少している町が多い中,中標津町の人口は増加している。
〔宮城県大河原町〕
面積: 25.01km2
総人口: 23,699人
人口密度:946人/km2
大河原町は「町」ではあるものの,広域行政機関が多く立地しており,宮城県南部の中心都市になっている。国道沿いにはロードサイドショップが建ち並んでいる。
〔北海道遠軽町〕
面積: 1,332.32km2
総人口: 21,724人
人口密度:16.3人/km2
やっぱり北海道の町は大きい。何キロも離れた郊外に住宅地を作ったりせず,公共施設も市街地に集まっているので,町がコンパクトで,その分市街地が大きい。北海道の厳しい自然環境がこのようなコンパクトな形態の町を作り出したものだと思われる。過疎化しつつ郊外に拡散している本州の町も,将来はこのようなコンパクトな街づくりに向かってもらいたい気がする。
〔香川県琴平町〕
面積: 8.46km2
総人口: 9,539人
人口密度:1,130人/km2
こんぴらさん(金刀比羅宮)の門前町として栄えた香川県琴平町。現在はJR土讃線と高松からの高松琴平電鉄琴平線が集まってきているだけだが,かつては善通寺市などからの複数の私鉄が争うように門前に乗り入れていた。人口が1万人を切っていることに驚くほど,市街地の規模は大きい。
〔宮城県柴田町〕
面積: 53.98km2
総人口: 39,423人
人口密度:730人/km2
上に出てきた宮城県大河原町の隣町の柴田町。人口は約4万人と大河原町の2倍近い。船岡城の旧城下町だが,町が周辺に拡散しつつある。
〔北海道新ひだか町(静内)〕
面積: 1,147.75km2
総人口: 24,772人
人口密度:21.6人/km2
北海道の静内(新ひだか町)。競走馬の産地である。やっぱり北海道の町は市街地が大きい。
〔岐阜県美濃高田町(現在は養老町)〕
面積: 72.14km2
総人口: 30,443人
人口密度:422人/km2
美濃高田は,すぐ東の牧田川にあった美濃三湊(烏江,栗笠,船附)から琵琶湖畔の米原に至る九里半街道(近江今津と小浜を結ぶ街道も九里半街道と呼ぶらしい)の,物資輸送の要衝となっていた町である。かつては嶋田町中と呼ばれ,市も盛んに開かれて賑わったそうだ。
〔富山県福光町(現在は南砺市の一部)〕
面積: 168.05km2
総人口: 20,041人
人口密度:119人/km2
この記事の冒頭に商店街の写真を掲載した,富山県の福光町。現在は南砺市の一部なので,少し主旨からは離れるのだが,わずか人口2万人の集落は密集した市街地になっていて,高レベルの商店街が形成されている。このクラスの町でも,郊外化はそれほど激しくはなく,中心市街地の密集度が高い。周囲の田園地帯は有名な砺波平野の散村(散居村)の一部になっている。
〔奈良県王寺町〕
面積: 7.00km2
総人口: 22,499人
人口密度:3,210人/km2
奈良県の王寺町。関西本線のJR王寺駅の左右に,近鉄生駒線の王寺駅と近鉄田原本線の新王寺駅が向かい合わせに並んでいるという,とても不思議な構造の駅前。近鉄生駒線と近鉄田原本線の線路は繋がっていない。そしてその不思議な駅前から,駅の北側の大和川までの一帯が市街地になっている。
〔埼玉県杉戸町〕
面積: 30.00km2
総人口: 46,133人
人口密度:1,540人/km2
東武動物公園駅(旧杉戸駅)の前を流れる古利根川の南西側は宮代町なので,その点を割り引いて市街地の大きさを見る必要がある。東武動物公園も日本工業大学も宮代町側にある。
〔千葉県佐倉市〕
面積: 103.59km2
総人口: 171,911人
人口密度:1,660人/km2
ここで「市」が登場。千葉県の佐倉市はあの長嶋茂雄を生んだところで,鎌倉時代・室町時代からの城下町だった。地図の中心にある鍵曲がりのある城下町らしい町並みはあまり大きくなく,郊外に大きな住宅団地が形成されることにより,人口は約17万人にまで増加している。
〔北海道池田町〕
面積: 371.91km2
総人口: 7,423人
人口密度:20人/km2
十勝平野にある「ワインの町」。2006年までは,根室本線から北見までの北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線(国鉄時代の池北線)が分岐していたが,それもとうとう無くなってしまった。北海道の町らしく,駅の周辺に市街地が固まっていて,その外側に農地が広がっている。
〔福島県三春町〕
面積: 72.76km2
総人口: 17,537人
人口密度:241人/km2
どさくさに紛れて,我が故郷,私が生まれ育った福島県の三春町をここに入れてみた。
人口約1万7千人。自分がいた頃よりもだいぶ減ってしまっている。三春は三春藩の城下町で,現在NHKの大河ドラマ「八重の桜」の戊辰戦争では,三春は奥州越列藩同盟に加わるも,白河・棚倉の戦いのあとで降伏し,三春城を無血開城……。そのおかげで二本松の少年隊の悲劇などを生んだ。
その後,その三春の寝返りを,揶揄する歌も流行ったのだとか。
〝会津桑名の腰抜け侍 二羽(二本松藩主丹羽氏)の兎はぴょんと跳ねて 三春狐に騙された〟
〝会津猪 仙台狢(むじな)三春狐に騙された 二本松はまるで了見違い棒〟
まぁ,そんな三春の城下町は,平地の少ない谷底にヒトデのように広がる町である。幕末の頃から変わったのは,たぶん三春駅南部(写真左上)の住宅地ぐらいで,あとはずーっと眠ったような町だばい。
〔神奈川県海老名市〕
面積: 26.48km2
総人口: 128,753人
人口密度:4,860人/km2
神奈川県海老名市。小田急線の駅前にViNA WALK等の複合商業施設があるが,一見すると郊外のショッピングモールと変わらない。
面積: 15.37km2
総人口: 70,469人
人口密度:4,580人/km2
東京都武蔵村山市。狭山丘陵と新青梅街道の間に小さな市街地が見られるが,密集するほどでもなく,街全体が住宅地と農地だ。
〔京都府京田辺市〕
面積: 42.94km2
総人口: 69,819人
人口密度:1,630人/km2
京都府京田辺市。高校の修学旅行では,この田辺町の丘の上に宿泊したことを覚えている。何もなかった。試験管を太くしたような太いストレート瓶のカナダドライジンジャエールを飲んだことも,生まれて初めての「ジンジャエール」だったためか,不思議に覚えている。片町線の両側は田んぼで,現在のローカル線のような運転本数だったと記憶している。もちろん電化されていなくて,ディーゼルカーだったはず。
関西地方で最高気温のニュースが流れるときに,よく耳にするという印象のある京田辺市。
〔東京都東久留米市〕
面積: 12.92km2
総人口: 115.976人
人口密度:8,980人/km2
東京都東久留米市。1889年の町村制では久留米村。1956年にやっと久留米町となり,東久留米,滝山,ひばりが丘団地などの大型団地が作られ,現在では11万6千人の都市になった。が,住宅地ばかりで市街地はほとんどない。
〔埼玉県三郷市〕
面積: 30.16km2
総人口: 133.888人
人口密度:4,440人/km2
東京都心から約20km圏にある埼玉県三郷市。初めて東北の田舎から上京してきたときには,巨大な武蔵野操車場と,それ以外は田んぼだったところ。大きなアパートが建ち並んでいるが,都市的な市街地は見当たらない。
〔神奈川県綾瀬市〕
面積: 22.28km2
総人口: 83,697人
人口密度:3,760人/km2
神奈川県綾瀬市。鉄道の駅がひとつもない綾瀬市。出かけたことはないけど,人口は8万人を越える。市街地はない。
〔神奈川県寒川町〕
面積: 13.42km2
総人口: 47,396人
人口密度:3,530人/km2
神奈川県寒川町。町としては破格の人口4万7千人。相模国一の宮寒川神社の門前町として栄えたところだから,大きめの門前町があるのかと思ったら,なぜか商店が密集するような市街地はどこにもなかった。
〔千葉県鎌ヶ谷市〕
面積: 21.11km2
総人口: 108,458人
人口密度:5,140人/km2
千葉県鎌ヶ谷市。人口11万人近い鎌ヶ谷市。市街地は……ない。
念のため書いておくが,ここで言っている市街地は商店などが密集する繁華街(商店街)や,過去または現在それに準ずる地域のことで,住宅地を含まない。人口集中地区DIDは人口密度が基準なので,この記事では住宅地として除外した地域も含んでいる。
〔奈良県香芝市〕
面積: 24.23km2
総人口: 77,018人
人口密度:3,180人/km2
奈良県香芝市。人口は増加の一途をたどり,現在でも奈良県の市町村では一番の人口増加率を誇る。
というわけで,長い割には言いたいことがわかりにくい記事になったと思う。たまにはこんなのも良いかな……と思って。
(地図はすべて国土地理院の地形図より引用)
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コメント
こうやって比較していくと、
市街地が分散しているのはほぼベッドタウンと呼ばれる地域だというのがわかって面白いですね。
柴田町と大河原町は隣接していますが、柴田町が仙台に近い分ベッドタウン的な側面が強いのに対し、
大河原町は官庁が多く、旧来から栄えていたのがわかります。
投稿: BOY | 2013年9月28日 23時07分
大河原町の国道4号線バイパスのロードサイドショップ群は凄いですね。今では隣の白石市すらも大河原の商圏に入りそうな勢いです。
明治の市制町村制施行時に大河原はすぐに大河原町になってますが(隣の現白石市も白石町),柴田は船岡村・槻木村でしたから,大河原に官庁が多いのはそれが理由でしょうね。
投稿: 三日画師 | 2013年10月 1日 00時13分
廃藩置県で宮城県が誕生してから140年以上経ちました。その間、県内における国県の出先機関は仙台、古川(現大崎市)、石巻、大河原の順に設置されるのが普通でした。大河原は宮城県で4番目に重要な拠点都市・中心都市と言えるでしょう。
しかし、小売業は白石が優勢で、昭和50年頃まで大河原は白石商圏に組込まれていました。そのせいもあって、大河原は中心都市の自覚を持たずに白石のネームバリューに寄り掛かり、「白石の近くから来ました」と言う習慣がありました。
平成5・6年頃に商業勢力は逆転し、現在は大河原商圏が白石を組込んでいます。しかし、広域的な行政と商業の中心地になった今も大河原の悪癖は抜けず、「白石の近くから来ました」と言うのですから中心都市としての自覚はすこぶる薄弱。
一方、白石は大河原に出向かなければ保健所や法務局などの用事が足せず、家電製品の購入もできません。この市勢力の低下に、中心都市であることを放棄した感じさえ受けます。
中心都市の自覚がない大河原町、中心都市を放棄した白石市、中心都市の座を狙うが地理的に外れている柴田町、中心都市競争の蚊帳の外に置かれた角田市。こうして、中心都市が育たない宮城県南部は、丸ごと仙台の勢力に呑み込まれて行くのでしょう。
投稿: 桜 | 2014年8月24日 01時27分
福島県で生まれ育った者のイメージからすると,なぜ白石藩の城下町だった白石市が,一帯の圧倒的な中心にならなかったのかが不思議でなりません。
大河原,角田,白石が同じ郡に所属していたとしたら,各出先機関は白石に集まっても良さそうです。
それぞれ別の郡になっていて,白石と角田の中間に大河原があったため,大河原に各出先機関が置かれたんじゃないか,などと邪推したりします。
そんな状況も,仙台が巨大化して飲み込みそうですね。福島市ですら,商業的には仙台に飲み込まれそう……
投稿: 三日画師 | 2014年8月26日 09時44分