ヨウ素剤を住民に配布=福島原発事故で三春町(2011年3月16日 時事通信)
東京電力福島第1原発から30キロ圏外の福島県三春町が、被ばくによる甲状腺がんの予防に効果がある安定ヨウ素剤を希望する町民に配布していたことが、16日分かった。
本来、国の指示が出てから配布することになっているが、同町保健福祉課の工藤浩之課長は「原発事故の不安を和らげるために決断した」と話している。
同町によると、15日午後1時から同6時までの間、希望する40歳未満の多数の住民に計約1万3000錠を配布した。多くの住民はすぐに服用していたという。
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県、安定ヨウ素剤の回収指示 三春町ではすでに服用(2011/03/18 福島民放)
福島県は17日までに、放射能の健康被害を防ぐ内服薬「安定ヨウ素剤」を住民に配った三春町に対して回収を指示した。安定ヨウ素剤は原子力災害対策特別措置法に基づき、国の指示が出てから住民に配布する。町は「住民はすでに服用しており、回収できない」としている。県によると、安定ヨウ素剤配布の国からの指示は出ていない。現段階では、県は一部の自治体に備蓄用として配っている。
町は14日に県から安定ヨウ素剤を入手。福島第一原発の爆発事故などを受け、専門家の意見を聞いた上で15日に配った。町は「県が放射能の測定調査の数値を公表していない段階だった。放射能の状況が分からない中、町民の命を守るために配布を決断した」としている。
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ヨウ素剤配布で混乱、誤った服用指示も(2011年3月21日 読売新聞)
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、各地で比較的高い放射線が観測されていることから、福島県内では国の指示を待たずに住民に安定ヨウ素剤を配布する自治体が出始めていることが、読売新聞社の調査で分かった。
各地で観測されている放射線レベルでは健康には問題がないが、国と自治体の方針が一致せず、混乱が広がっている。
(中略)
独自判断で安定ヨウ素剤を配布していたのは、同原発の20キロ・メートル圏内で避難指示が出ている富岡町、20~30キロ・メートル圏内で屋内退避になっているいわき市、圏外に位置する三春町。これら3自治体では、少なくとも15万7000人分を配布。三春町では住民の服用も求めていた。

[三春町大町の裏を流れる桜川 - 1996年撮影]
以上のような記事に書かれている通り,我が故郷である福島県三春町では,福島第一原発の事故の直後の3月15日に県から安定ヨウ素剤を入手し,希望する40歳未満の多数の住民に安定ヨウ素剤を配布し,多くの住民はすぐに服用したという。
国や県の発表では,その時点で各地で観測されている放射線レベルは「今すぐ健康に影響を及ぼすものではない(今年の流行語大賞候補かな)」というものであったから,各種メディアの記事は,何にもわかっていない小さな自治体(三春町)では安定ヨウ素剤を配ってしまったたらしいよ,しかも国や県の指示がないのに飲ませちゃったらしい……という三春町をバカにしたニュアンスが見て取れる。

[三春小学校の校門(旧藩校明徳堂の門) - 1996年撮影]
報道はやや穏やかだったかもしれないが,三春町自体へは強い批判の声があったに違いない。
しかし,その後になって,福島県内各地の放射線量が明らかになってくると,県内のほとんどに降り注いだ放射性物質は,3月15日に一気に拡散し,その後の新たな拡散はほとんど無く,最初に拡散して地面や屋根や草木に積もった放射性物質の影響が残るだけになっていることがわかる。
最後に載せる放射線量の推移のグラフを見れば,3月15日に安定ヨウ素剤を配って飲ませたことは,決して間違った判断ではなかったと思う。いや,国や県の指示がないのに,三春町独自に判断したことは,大英断だったとしか言えない。
三春町は小さな町なので,町役場では私の同級生や知り合いがたくさん働いている。私の記憶の中では,彼らはまだ中学生だった頃の姿のままだが,年齢的に言えば,役場内の各部署で中心的な存在となって働いていることだろう。
そんな三春町が,国や県が迅速な対応ができない中で下した住民第一の判断を,私はスタンディングオベーションで讃えたい。

[三春中学校(旧)体育館横の田村高校に続く坂道 - 1996年撮影]
三春町は,昔から周囲の動向やお上からの指示に安易に従わず,ちゃんと自分たちの頭で考えて判断する人たちが多い土地柄なのかもしれない。
戊辰戦争の時,東北列藩同盟にありながら,三春藩は途中で寝返り三春を無血開城(会津や二本松からは「三春狐」と揶揄された)。土佐の板垣退助などの影響を受けた三春藩出身の河野広中らが福島県を東北の自由民権運動の中心にしていった。
近年では,町の教育長を公募したり,教育改革のさきがけてとして,教室間の仕切りや始業・終業ベルのない学校を多く作ったり,とにかくいろいろやっている。
なにごとにも,ちゃんと自分の頭で考えている役人がいる町は,やっぱり何があっても対応は早いし,その対応も的確だ。間違ったときにはちゃんと責任をとれば良いだけだ。
三春町やいわき市以外の町では,県から回収指示のあった安定ヨウ素剤を使用せず,黙って返却するのだろうか。福島県の細かいニュースは首都圏にはなかなか入ってこないのだが,福島県の対応には(もちろん国の対応も)いろいろ疑問を感じることが多い。そんな県の指示に無条件に従って,それって大丈夫?

(@hayano【グラフ更新 全国の放射線レベル】4/18まで)
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