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2011年3月 6日

百恵ファンは見逃せない『プレイバック制作ディレクター回想記 音楽「山口百恵」全軌跡』

 年初から一部の百恵ファンの間では相当に話題になっていた本,『プレイバック制作ディレクター回想記 音楽「山口百恵」全軌跡 (川瀬泰雄著)』が出版されたので,さっそく入手した。百恵ファンとしては,レコーディングディレクターが全シングル全アルバム全曲についての,レコーディング模様から,作詞家・作曲家・編曲家,そして山口百恵とのやりとりについて解説したものだから,これを入手しないわけにはいかない。

【著者プロフィール】
川瀬泰雄:横浜出身。東京音楽出版(ホリプロ)入社後,山口百恵の引退までプロデュース。そのほか井上陽水,浜田省吾,松田聖子,岩崎宏美等のプロデュースも担当,現在まで約1600曲をプロデュース。現在,ビートルズ研究家として,著書に学研新書「真実のビートルズ・サウンド」がある。

 山口百恵の全曲辞典で,全曲についての解説という荒技を,1979年の時点で平岡正明氏は『山口百恵は菩薩である』にて実現しているが,直接レコーディングに立ち会った川瀬氏の解説を読むことができるのは,それに勝るとも劣らない楽しみである。

プレイバック 制作ディレクター回想記 川瀬泰雄

 まず,この本の装丁を見て驚いた。『プレイバック制作ディレクター回想記 川瀬泰雄』,目立つ帯にも「楽曲,編曲,レコーディング 制作ドキュメント 全シングル・アルバムの解説&エピソード満載!」とあっさり書かれているだけ。

 慌てて本をひっくり返しても,小さな文字で,百恵のデビューから引退までのシングル曲が,人にめざめる14才 としごろ/青い果実/禁じられた遊び/……/さよならの向こう側/一恵,と並んでいるだけなのである。帯の文字にやっと『「スター誕生!」からデビューし,国民的大スターへと成長した山口百恵の全ドキュメント。その軌跡を制作ディレクターが書き綴った。数々の名曲が生まれた背景,歌手としての成長を,シングル&アルバム制作の現場から紹介する。』と,あまり大きくなく書かれている。

 世の中の週刊誌を始め,書籍にもでかでかと見出しに「百恵(あるいは,その時点で人の気を惹き付けている何か)」と表示して,読者の目を引こうとするものが溢れているにもかかわらず,この本はそういう戦略を拒絶しているかのような体裁を取っている。
 1970年代の歌謡曲やアイドル系ポップスアルバムでは,アルバムのジャケットに顔写真が使われないことなど,考えられない時代であった。60年台〜70年代の洋楽のロックのLPジャケットはイラストなどによるカッコいいものがたくさんあり,川瀬氏は,山口百恵のアルバムでそれをやってみたいと思い続けていたそうだ。音楽のみで勝負してみたかったのだ。

 そのあたりからも,この『プレイバック制作ディレクター回想記』の装丁が,「百恵」の文字を極力排除して,地味でストレートな装丁の中身で勝負という路線をとったのは,川瀬氏の本の中身で勝負という意気込みの表れだと感じる。
 さらに,こういう本にありがちな,「俺は百恵と仕事をしてたんだぜ」「あそこは俺の指示でこう直したんだぜ」のような,著者の傲慢な自尊心のようなものも皆無なのがすばらしい。

 そして,その本の内容ががすごいのだ。
 実は,私があまり評価していなかった初期の山口百恵の歌唱についても,1曲ごとに何かつかんでいることにちゃんと気づき,レコーディングごとにそれが少しずつ花開いていくところまで,温かい目で見守っている。
 それが全曲について書かれているわけなので,百恵の歌を聴きながら,本を読み進めていくと,百恵の歌唱の驚くべき進化がまるで映画を見るかのように眼前に立ち上がってくるのである。

プレイバック 制作ディレクター回想記 川瀬泰雄

 この本は本当にすばらしい。山口百恵マニアだけにとどまらず,30年以上も前の百恵の歌が2011年になっても歌い継がれていることを不思議に思っている若い人も,ひょっとしたら楽しめる本だと思う。
 あえて問題を挙げれば,本を読んでいるうちに,百恵のアルバムが次から次に欲しくなってしまうことだろう。あっ,私は既にアルバムをコンプリートしているので,まったく問題ないけどね(イヤミ笑)

 川瀬氏が生きているうちに,このような企画が成立したことを,率直に喜びたい。最高の贅沢を言わせてもらえば,この本の出版をきっかけにして,川瀬泰雄・金塚晴子・萩田光雄の三氏に,三浦百恵さんを加えた対談が開かれることを期待したい。もちろん,文字オンリーでも万々歳である。

 このブログ「三日画師のかすかだり」の記事で,「私」を「アタシ」と「わたし」に歌い分ける百恵の凄さなどを書き続けてきた私だが,本の中で『夢先案内人』の「♪夜明け前です〜」の歌い分けを先に指摘されてしまったし,それ以外のところも,私の素人の思いつきのようなレベルの指摘を遙かに超えた解説を,川瀬氏がしてしまっている。
 その点では,『夢先案内人』の表現のエロさとか,これからちょっと書こうと思っていたブログ記事を見直していかなければならなくなったようだ。

 また,本を入手してから土曜日丸ごと一日を,本を読みながら百恵ちゃんの音楽を聴き直す作業に使い切ってしまった。まだ,18才時の「百恵白書」のところまでしか聴き直せていない。まだまだ百恵漬けで寝不足の日が続きそうである。

 それにしても,引退後30年もたった歌手の全アルバム全シングルの全曲解説本が出版されるなんて,これは空前絶後の事態だ。

【追記】
 掲載曲の索引が巻末に掲載されているのは当然だが(この当然のことすらできていない本も多い),なんと「楽曲バージョン違い一覧」というマニアックな一覧まで掲載されている。
 シングル,アルバムで発表されたスタジオ録音の楽曲の中には,後にアレンジやサイズを変えた別バージョンがリリースされる場合がある。MIX違いやニュー・アレンジにはボーカルに別トラックが使われている場合もある。この資料が,そのへんのマニアックな聴き方の参考になりそうだ。

プレイバック 制作ディレクター回想記 川瀬泰雄

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コメント

川瀬氏のインタビューの連載がサイトに載ってました。宇崎、浜田省吾、谷村新司などなど、当時のデモテープの話です。その弾き語りのテープ、聞いてみたい!
http://gakken.jp/ep-koho/?cat=67

投稿: saita | 2011年3月 6日 12時58分

 saitaさん,コメントありがとうございます。
「エレキギター一本のデモテープがすごかった!」とか本のなかにも書いてあるカセットテープとか,ソニーの倉庫に眠っているらしい別テイク・別アレンジの音源とか,ぜひとも聴いてみたいですよねぇ。

投稿: 三日画師 | 2011年3月 6日 19時43分

ももえちゃんファンとしては、買って読まなくっちゃだわ。

投稿: tar | 2011年3月 7日 18時55分

当時、宇崎さんのデモテープ(横須賀ストーリー)に衝撃を受けたらしいので、きっと今聞いたら、生々しくて相当かっこいいかも。サイトでのインタビュー、
http://gakken.jp/ep-koho/?p=684
で川瀬氏が言ってましたが、谷村さんの何回も歌いなおしたデモテープもすごそうです。
この本は、初期、青い性路線の頃の歌の成長の様子が、ファンとしては脱帽!の内容でした。やっぱり一気に大歌手になるわけないし、人間としての成長もあったんでしょうと想像しています。

投稿: saita | 2011年3月 7日 22時29分

 初期の青い性路線の頃の記述が,川瀬さんにしか書けない内容で,しかも暖かくてとても良いですね。

 私は,初期の百恵ちゃんをあまり評価しておらず,好きな曲をたまに聴く程度でしたが,ちょっと聴き直して目から鱗が落ちる感じがしました。平岡正明本の影響を受けすぎていたかもしれないと,反省しているところです。

投稿: 三日画師 | 2011年3月 8日 01時37分

一番若く輝いていた頃のものってどんな人にもあったものです!30年も年月が流れ今の百恵さんは太ったおばさん、もう自分が歌手だった事も忘れているみたいですね!だけどそれで良いと思います!百恵さんはスターの座を惜しげもなく捨て平凡だけれど、かけがえのない幸福を手に入れたんですもの!大スターから平凡な主婦に…これが山口百恵なんですね!

投稿: 一恵 | 2013年2月12日 17時23分

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