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2011年2月20日

実はすごく怪しい「和田岬線の廃止検討要望」

 利用客3割減 和田岬線の廃止検討 JR西日本(2011/02/15 神戸新聞)

 JR西日本が、神戸市兵庫区の和田岬線を廃止する方向で検討を始めることが分かった。神戸市営地下鉄海岸線の開通などで利用客が約3割減った上、「地域を分断している」として地元から廃止を求める声が上がっていた。JR西と神戸市は2011年度、地元団体を交えた協議の場を設け、廃止を前提に地域の活性化策を検討する。

和田岬線和田岬駅1999年6月
 出張帰りに和田岬駅で列車を待つ[1999年6月]
 地下鉄で帰ろうとする先輩と別れて,和田岬線を撮影して帰ろうとしたが,先輩が和田岬線に付いてきてしまって,こんな写真しか撮れなかった(涙)

 関西のJR線でも不思議な路線として有名な和田岬線。独自の存在感(のなさ)を発揮していた和田岬線に廃止の話が出ているのだ。これが実に不思議で怪しい感じがするので,少し書いてみたい。

 和田岬線はJR兵庫駅から分岐する,全長わずか2.7kmのミニ路線である。途中から分岐する川崎重工業の専用貨物線としての役割のほか,終点の和田岬駅の先に広がる三菱重工と三菱電機(およびその関連企業)の従業員の通勤路線としての役割を果たしている。
 その役割が極端なため,朝晩のラッシュ時のみに運転される列車は大混雑するが,日中に運転される列車は無い。休日は朝夕の2往復だけの運転になっている。

 その和田岬線も,神戸市営地下鉄の海岸線が,2001年に三宮〜和田岬〜新長田という経路で走り出したときには廃止されるという話もあった。
 しかし,これはたぶん想像になるが,JR三ノ宮やJR新長田から神戸市営地下鉄に乗り換えて和田岬駅まで通勤で利用すると,JR和田岬線経由の定期代よりもかなり高い金額になるのではないかと思う。会社の定期券申請のルールでは,最も料金の安い経路分の費用しか出ないため,そのままJR和田岬線を利用し続ける従業員が多かったに違いない。

 実際に,Wikipediaの和田岬の項目に,和田岬駅の年間乗車人員の推移が乗っているので下記に引用する。

年間乗車人数は次の通り。
JR和田岬線(山陽本線)
▪ 1999年度:2,894千人(2,759千人)
▪ 2000年度:2,804千人(2,671千人)
▪ 2001年度:2,458千人(2,344千人)
▪ 2002年度:2,196千人(2,116千人)
▪ 2003年度:1,975千人(1,883千人)
▪ 2004年度:1,829千人(1,732千人)
▪ 2005年度:1,751千人(1,664千人)
▪ 2006年度:1,688千人(1,596千人)
神戸市営地下鉄 海岸線
海岸線各駅の中では新長田駅の次に多い。
▪ 2001年度:1,931千人(828千人)
▪ 2002年度:2,306千人(1,175千人)
▪ 2003年度:2,618千人(1,540千人)
▪ 2004年度:2,593千人(1,494千人)
▪ 2005年度:2,569千人(1,474千人)
▪ 2006年度:2,680千人(1,492千人)
カッコ内は定期利用者の再掲
「神戸市統計書」(神戸市企画調整局総合計画課・編)による

 以上のように,神戸市営地下鉄の利用者は徐々に増えてはいるものの,定期利用者はまだ和田岬線の利用者のほうが若干多いほどで,神戸市の思惑通りに市営地下鉄への移行は進んでいないように見える。

 一方,和田岬線は,ラッシュ時だけにしか列車を運行せず,実に効率よく利用客を運んでいる。1990年までは使い古した旧客による運行,2001年まではこれまた使い古したキハ35による運行だったところだ。しかし,路線廃止の話があったにもかかわらず,JRとしては2001年に電化までして電車を走らせ,列車の本数も増やしている。

 そこで元の記事をよく読むと,「JR西日本が、神戸市兵庫区の和田岬線を廃止する方向で検討を始めることが分かった」で始まっているが,実際のところは次の文章がキーになっていそうだ。

(1) 神戸市営地下鉄海岸線の開通などで利用客が約3割減った
(2) 「地域を分断している」として地元から廃止を求める声

 神戸市営地下鉄海岸線に関するニュースを調べてみると,これまた惨憺たる状況なのだ。Wikipediaの利用状況の項目を見ると,下記のような記述が見られる。

利用状況(神戸市営地下鉄海岸線)
普段は終日、全線に亘って座席が埋まることは少ない。駅に関しても4駅で1,000人台と、非常に利用客が少ない。しかし、サッカーの試合などがある場合は席が埋まることが多い。
開業前の1日平均乗車数の予想は8万人とされていたが、開業した2001年は3万人、2005年も4万人にとどまっている。この理由は、主に次の2つの点が原因とされている。

 穿った見方をすれば,神戸市としては,市営地下鉄海岸線の乗客増加を図るために,目の上のたんこぶ的な存在であるJR和田岬線を廃線にしたいのだ。和田岬線は住民の足ではなく企業の利用者ばかりであるから,地域住民からの反対は出にくいという判断もあるだろう。
 市営地下鉄海岸線の利用者数は当初予測の1日13万人を大幅に下回っており,累積赤字は約830億円にも膨れあがっているらしい。少しでも利用者を増やすためには,まずは目の上のたんこぶ……なのだと思う。

 そしてもう一つ,(2)の地域を分断しているという件である。
 神戸市は2009年度に「兵庫運河活性化協議会」を設立し,周辺の臨海部を重要活性化エリアとして,兵庫運河を活かしたまちづくりを進めようとしている。この「兵庫運河活性化協議会」のメンバーがどういう方なのかは知らないが,運河をめぐる遊覧船の運航や,歩行者が回遊できるルートの整備を検討したところ,和田岬線が地域を分断しているという指摘が出たそうな。

 たしかに和田岬線の橋はもともと旋回橋だったものを固定しているので,大きな船舶は通れない。だが,ここの兵庫運河を通る遊覧船がどれほど魅力的なものになるのかが想像も付かない。私のような物好きなら,兵庫運河を通る遊覧船に一度は乗ってみたいと思うけれども,とても観光的にアピールするものがあるようには思えないのだ。最近流行の「工場萌え」もない。この兵庫運河の遊覧船が莫大な赤字を出さないようにチェックが必要である。

 というわけで,このJR和田岬線の廃止の話は,JR西日本が和田岬線の運行に行き詰まったためではなく,神戸市の市営地下鉄海岸線振興策に端を発したもののように思える。沿線自治体が廃線反対を言うのではなく,廃線依頼をするなんて前代未聞じゃないだろうか。今後も注意深く見ていきたい議論である。

【関連記事】
・2012年1月13日:利用しない和田岬線廃止して住民は費用負担するのかね?
(和田岬線を廃止したら市営地下鉄海岸線はもっと厳しい状況になるという話)

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コメント

初めまして。
たしかにそうですよね。神戸市のいいようにされているような気がします。利用しているのは工場関係者なのだからその人たちの意見も聞くべきですよね。
JR西も、ムーンライト廃止の時もそう思いましたが、利用者の意見をあまり聞いてくれない。
なんとか和田岬線が無事であってほしいなと、地元でない者は思います。
いきなり訪れて長文失礼しました。

投稿: 国鉄車両 | 2011年7月 8日 16時51分

 コメントありがとうございます。
 これはホントに不思議なニュースで,続報が聞こえてこないだけに気になります。

 記事の中で,「和田岬線が地域を分断している」という声を上げたという『兵庫運河活性化協議会』なるものがどういうものなのかがよくわからないのでGoogleで検索すると,地域住民・企業・行政等が設置した『兵庫運河魅力再発見プロジェクト協議会』なるものと,それを元にして『兵庫運河活性化会議』が設立されたという話が神戸市兵庫区まちづくり推進部のサイトに載っていて,微妙に神戸新聞の記事とは名称が違っていて悩ましい限りです。

 で,この『兵庫運河活性化協議会』と『兵庫運河活性化会議』が同じものだとすると,その参加団体として,和田岬線を保有するJR西日本神戸支社や,和田岬線の主要な利用客を雇用する三菱重工や三菱電機が名を連ねており,不思議さに輪を掛けることになっています。

 JR西日本としては,もうけが出る路線ではないので,これを機に路線用地を神戸市に買い取ってもらえるとか,赤字が補填されるとかのメリットがありそうなので,どっちに転んでもおいしい話なのかもしれません。

 利用客や,利用客が勤める企業側にしてみれば,和田岬線が廃止になれば通勤費補助負担が増大するので,積極的に廃止を望むとは思えないところですが,工場周辺の地域との共生というのは現代の企業の重要なテーマのひとつですので,神戸市や周辺自治体から強く要請されれば,断れないのかも……。

 まぁ,正直なところ,和田岬線から移ってくるラッシュ時の通勤客(しかもラッシュ時のみで,日中はまったく増加しない)をさばくために,神戸市営地下鉄にはさらなる設備投資(保有車両増加やホーム改修)が必要になりそうなので,神戸市にとっては和田岬線の廃止はあまりおいしい話ではないんじゃないかと,個人的には思っています(神戸電鉄粟生線と同じ悩みを抱えることになりそう)。

投稿: 三日画師 | 2011年7月 8日 23時51分

和田岬線も重要な観光資源です
鉄橋の幅・高さが不足なら拡張・かさ上げすべきです
前後の橋の高さより、数mも上げる必要はなく1m強ぐらいで充分です
これならば住民の寄付および関連工場の製造・技術協力で賄えます。
遊歩道などは階段を上る展望台兼用にすべきです
展望台から見る和田岬線は最高です

投稿: 兵庫区連 | 2012年3月10日 17時54分

 和田岬線を廃線にしてしまうとか,多額の費用をかけて鉄橋をかさ上げしてまで,運河に観光船が通るようにしたいならば,むしろ運河に架かる和田旋回橋を旋回できるように修復したらどうでしょうね。

 普通の路線と違って,日中は列車が走りませんから頻繁に動かす必要はないし,日本国内でも珍しい鉄道の旋回橋ですので,さらに観光の目玉になりそうな気がします。

投稿: 三日画師 | 2012年3月17日 15時57分

旧佐賀線のような昇開橋のような橋を和田岬線に導入するのは?

実際に廃止すると100年は後悔するし後世からバカにされ恨まれるでしょうね。

投稿: | 2012年11月10日 18時46分

 昇開橋ができたら人気が出るかもしれませんね。
 でも,周辺を見回すと,架橋工事のために仮設橋を設けるエリアもなく,日中丸ごと工事に使えるといっても,橋の架け替えは無理だと思います。

 同様に,既存の旋回橋(これも線路を動かして船を通るようにする橋です)を動くように復活する案も考えられますが,実際に工事をするのは難しいんじゃないかと思います。

投稿: 三日画師 | 2012年11月15日 02時40分

その後、3年半たちましたが、和田岬線廃止どころか現状維持でいきそうな状況ですね。

・JR西日本はドル箱路線(定期収入の費用対効果が抜群)
・神戸市選挙民(兵庫区以外も含む)は和田岬線の廃止に反対
・兵庫駅近くの商店街が和田岬線廃止に反発
・和田岬線廃止交渉からJR西日本が離脱

和田岬線を廃止しても神戸市民の票を失いかねないということもあって、神戸市長や兵庫県知事としてはデッドロックに陥った模様。

やっぱり、インフラ系は事前の根回しが重要ですね。

投稿: | 2014年10月14日 22時12分

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