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2010年2月 2日

「バカにしないでよ!」の後の涙声の秘密

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 私が好きな山口百恵の曲の多くは,シングルカットされていないアルバム曲だ。また,スタジオ録音よりもライブ音源に魅力的を感じている。

「マホガニー・モーニング」「夜へ…」「銀色のジプシー」「時の扉」「タイトスカート」「CRY FOR ME」「ファッショナブル・ドリーム」「踊り明かそう」「サンライズ・サンセット」「空蝉」「オレンジ・ブロッサム・ブルース」「春爛漫」「娘たち」「鏡の中のある日」「ミス・ディオール」「口約束」「WHO」「美え貝」「木漏れ日」……(思いついた順序なので抜けがいっぱいある)

 でも,山口百恵という歌手がすごかったということを語ろうとすると,世間一般に広く知られている曲でそれを説明しないと,なかなかわかってもらえない。

 そこで,超有名曲の「プレイバックPart2」である。
 有名な決めゼリフ“バカにしないでよ!”が2回出てくる歌だ。


◎ プレイバックPart2  《詞:阿木燿子,曲:宇崎竜童 編:萩田光雄》

 曲の内容はこうだ。

♪ 緑の中を走り抜けてく真っ赤なポルシェ
♪ 一人旅なの私気ままにハンドル切るの

 昨晩の彼氏,あたしを抱くだけ抱いておきながら「女はいつだって抱かれるのを待ってる」なんて寝ぼけたこと言っちゃってさ,腹が立つわ。どうせ,どこかの女に馬鹿なこと教えられちゃったのね。まったく,まだ子供なんだから……。

 などと考えごとしてたら,幅寄せしてきたオッサンの車にミラーぶつけちゃったわ。

♪ 交差点では隣の車がミラー擦ったと
♪ 怒鳴っているから私もついつい大声になる

 「そっちが幅寄せするからぶつかったのよ!」「何だ,やけにスピード出してたけど運転してたのは女かよ。ヘタッピーなのに高そうな車乗ってるじゃんか?」「バカにしないでよ!」

 このオッサン,女が運転してるのを知ってて嫌がらせしてたんだな,たぶん。妬みってやつかな。

 百恵が座るのは真っ赤なポルシェの左ハンドル左座席。幅寄せしてきたオッサンの車はたぶん国産車だから,右ハンドルの右座席。この距離感が重要だと平岡正明師匠は言っていた。

バカにしないでよ! そっちのせいよ!(ここの“そっちのせいよ”は怒鳴り声)

 (「バカにしないでよ!」の相手は,因縁を付けてきたオッサン。当然キツイ怒鳴り声になる「そっちのせいよ!」にも力が入る)

 〜PLAY BACK PLAY BACK(昨晩の彼氏との別れ際まで巻戻る)〜

バカにしないでよ! そっちのせいよ!(ここの“そっちのせいよ”は涙声)

 そうだ,このセリフは別れ際に投げ捨ててきた言葉だったわ。その後ポルシェで飛び出してきた。「そっちのせいよ!」は完全に涙声になってる。本当は彼氏が好きだから,出てきたくなかったんだ。でも,彼氏はベッドで後ろを向いたまま「勝手にしやがれ」なんて言ってるし。まったくバカにしないでよ……。

♪ はるかな波がキラキラ光る海岸通り

 どのぐらい走っただろうか。百恵が運転するポルシェは湘南へ。すっかり日が昇り,気持ちいいドライブだ。

♪ 潮風の中ラジオのボリュームフルに上げれば
♪ 心かすめてステキな唄が流れてくるわ

勝手にしやがれ! 出ていくんだろう!(“出て行くんだろう”は投げやり)

 ラジオから沢田研二の「勝手にしやがれ」が流れてきた。出て行く女を背中に感じながら,壁際に寝返りを打って「寝たふりしてる間に出て行ってくれ」と歌う歌だ。つまり,このラジオのスピーカーから流れてきた「出て行くんだろう!」は,沢田研二が演じていた歌の中の主人公のセリフなので,百恵は「やや投げやり」に歌っている。

 〜PLAY BACK PLAY BACK(昨晩の彼氏との別れ際まで巻戻る)〜

勝手にしやがれ! 出ていくんだろう!(“出ていくんだろう”が寂しげ)

 昨晩の彼のセリフ「勝手にしやがれ! 出ていくんだろう!」は,つまり彼の本心からの言葉ではなくて,カッコつけて流行歌を真似したものだと言うことに百恵は気づく。

 あの人は突っ張ってたみたいだけど,この歌にソックリじゃないの? とても寂しそうだったわ。何のことはない寂しがり屋の坊やなのね。しゃーねぇ,戻ってやるか。

♪ あなたのもとへ
♪ Play Back Play Back
♪ あなたのもとへ Play Back

【結論】
 歌の中には,「バカにしないでよ! そっちのせいよ!」が2回,「勝手にしやがれ! 出ていくんだろう!」が2回出てくるのだが,それぞれにシチュエーションが異なっている。それをきちんと歌い分けて,表現(演技)している山口百恵はすごい。

 最後に,YouTubeの動画をもうひとつ。

 歌詞の中にある「ジプシー」が言葉狩りにあって,引退後にマスメディアに取り上げられることがほとんど無かった『謝肉祭』である(以前はラストコンサートの映像からもカットされていた)。音源は,引退後に新アレンジのリミックス盤として発売されたアルバム『百恵回帰』からのもの。

 もうひとつと書いたけど,さらにもうひとつ追加したくなった。
 こっちは武道館のラストコンサートでの『謝肉祭』の映像。引退後に発売されたビデオをすぐに買った人,この部分がカットされてるのを知ったときにはショックだったろうなぁ。

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コメント

山口百恵さんの歌は、掘り下げてみると本当に深いですね。曲の出た当時、小学生のクソガキだった私なぞ、「緑の中を走り抜けてく真っ赤なポルシェ…」の歌詞のシチュエーションすら想像する事が出来ませんでした。

あの頃、若い女が一人でポルシェをドライブさせて、湘南辺りの緑の中の道を颯爽と走る…なんてシチュエーションは、今考えてみれば、とんでもない別世界の構図だったんだよなぁ…(思わず遠い目)。

作詞の阿木燿子の想像力に脱帽ですが、それをしっかりと自分の歌に仕上げて、自身の経験値以上にリアルに歌い上げて見せた山口百恵さんの才能には、並外れたものがあります。

だからこそ、宇崎竜童、さだまさし、谷村新司等々、時代を彩ったミュージシャン達に提供を受けた数々の曲を、次々にヒットチャート上位に送り込む事が出来たのですね。

私は個人的に宇崎さんのファンでもあるので、彼が手がけた提供曲を自選して歌ったアルバム「しなやかに したたかに~女たちへ」シリーズに収録された「曼珠沙華」「謝肉祭」「ミス・ディオール」「夜へ」「さよならの向う側」等は、時折愛聴しております。

百恵さんの全集も、そろそろ手に入れたいなぁ…とは思っているのですがね。

投稿: もりあき | 2010年2月 3日 18時32分

 阿木燿子の詩はすごいですよね。短い詩なのに,ちゃんとしたドラマになってる。言葉の選び方も良いです。

 宇崎竜童の「しなやかに したたかに 〜女たちへ〜」は私も好きです。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドのももちろん良いですね。
 「愚図」〜「あるアングル・トライアングル」の歌詞がつながってるような気がして,続けて聴くとグッときます。

投稿: 三日画師 | 2010年2月 3日 20時58分

プレイバックにポルシェを出した、阿木耀子さんのセンスは脱帽ですね。
商品名を歌詞に使うと商品の寿命に歌詞の寿命が制限されますが、ポルシェはいまだに最高級車ですからね。
ロータスやカウンタックやアメ車を使っていたら、すでに寿命が来ていたところだ。

投稿: タカノ | 2010年3月 9日 01時36分

 アルバム曲の中には,「真っ赤なポルシェ」に対応するかのように「白いフェラーリディーノ」も出てきます。
 阿木燿子のセンスはホントにすごいと思います。今聴き返してみてやっと,ああそうだったのか,そこまで考えてたのかと思うことも多いですから。

投稿: 三日画師 | 2010年3月 9日 03時32分

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