『カルメン故郷に帰る』に感動す
以前から見てみたいと思っていた古い映画がDVDで発売されていることを知り,さっそく買い求めた。
買ったのは木下恵介監督の『カルメン故郷に帰る』,国産初の総天然色映画として知られている。
パッケージの説明書きは……
ちょっぴり
おつむの弱い女性が
帰郷した
信州浅間山のふもと
職業は
なんとストリッパー
純朴な村人との
てんやわんやを
見つめる
世相風俗批判の目
とある。喜劇・コメディに分類されてている映画だが,主役の「おつむの弱いストリッパー」が天下の大女優高峰秀子(映画に詳しくない私でも知っている)だったりして,いまいち内容が想像できない。
そのうちテレビで放映されるんじゃないかと思って,ビデオレコーダーの自動録画キーワードに「カルメン」を入れて放置してきたが,一向に放映される気配はなかった。
北軽井沢の駅(軽井沢のある長野県ではなく,群馬県長野原町にあった)に,ストリッパーのリリー・カルメン役の高峰秀子が下車したシーン。古い客車と鮮やかな衣装のコントラストと,「北軽井沢の駅,北軽井沢の駅」という駅員の声が印象に残る。
実は,映画そのものに興味があったわけではなく,映画の中に出てくるという草軽電鉄に興味があったのだ。草軽電鉄は,その名の通り,草津温泉と軽井沢(新軽井沢)を結んでいた鉄道である。旧軽井沢駅舎の前に保存されているL字型の電気機関車デキ12の,実際に動く姿がカラーで見られるのである。
三日画師の「さすけね」:【軽井沢から上田へ】の10枚目にデキ12の写真がある
というわけで,草軽電鉄のシーンを目的に買ったDVDだったが,映画を見ているうちに,すっかり映画の魅力に嵌り込んでしまった。
まず,冒頭のタイトルバックのヘタウマ漫画風の絵と,似つかわしくない暗いテーマ曲『そばの花咲く(作詞・作曲:木下忠司)』の合唱に驚く。唄は渡辺はま子とビクター児童合唱団とクレジットされているが,渡辺はま子というのは誤記?で,児童合唱団と大人の混声合唱の歌声が入っている。
このテーマ曲は,映画の中では,出征して視力を失って帰ってきた田口先生が最近作曲した「ああ,我がふるさと」として,田口先生がオルガンで演奏する場面などで印象的に繰り返される。
火の山の
ふもとの村よ
なつかしの
ふるさと
……
(作詞:木下忠司)
高峰秀子と小林トシ子が扮する天真爛漫で能天気なストリッパー(まだ戦後占領下の1951年の話であり,ヘソと太ももを露わにする程度で,村人達は高峰秀子のヘソを露出した写真を見て衝撃を受けるのである)と,不幸を一手に引き受けるかのような田口先生のコントラストが描かれる。
この映画の劇場公開は1951年8月24日。映画の中の浅間山は,いつも白い噴煙を上げている。まさに「火の山」である。
この時期,浅間山の火山活動は活発だった。関東地方が降灰で日中も夜のように暗くなったという1783年の大噴火(死者約1500人)の後も,1960年頃までは毎年のように噴火していたことが,気象庁の火山活動の記録からも見てとれる。劇場公開の前年の1950年には噴火で登山者1名死亡,6名負傷,1947年には登山者11名が死亡している。
白樺に囲まれた浅間山麓の牧場や草原,校庭の真ん中に置かれたオルガンを囲んで踊る裸足の子供達(子供達はほとんどが裸足で駆け回っている),その背後には白煙を上げる浅間山と真っ青な空。総天然色を強調する映像と,富士写真フイルムの外式リバーサルフィルムの独特の発色が美しい。
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