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2005年6月の3件の記事

2005年6月 4日

dippin' / Hank Mobley


dippin' / Hank Mobley

 私の大好きなテナー奏者ハンク・モブレイ(モブリー)の人気盤である。ハンク・モブレイの代表作と言えば,収録曲全部が快演で埋められている『Soul Station』ということになるが,巷の人気で比較すれば『dippin'』に軍配が上がる。なにしろ『dippin'』には泣く子も黙る「Recado Bossa Nova」が入っているのだ。

 ハンク・モブレイはブルーノートに多数のアルバム(サイドメンとして参加したものを加えると膨大な数になる)を残しているが,ひいき目に見ても超一流ミュージシャンではない。もちろん,かのマイルス・デイヴィスのバンドにも加わったこともあり,実力のないテナー奏者ではないのだが,くぐもった感じの音色やアドリブ・ソロのフレーズが地味すぎるのである。
 マイルス・デイヴィスのアルバム『Someday My Prince Will Come』には,ジョン・コルトレーンとハンク・モブレイの二人のテナー奏者が参加している。その一曲目はアルバム名にもなっている「Someday My Prince Will Come」。曲はマイルスのミュートによるテーマ演奏で始まる。マイルスは名盤『Kind of Blue』を録音したばかりの充実した時期にあり,そのトランペットの音はたとえようもなく美しい。それに続くは我らがモブレイのソロ。モブレイらしい優しく暖かな音色,フレーズ,ちっとも悪くないソロ演奏である。
 モブレイの後はウィントン・ケリーのピアノソロ。そして最後に登場するのは,マイルス・バンドから離れ,独り立ちしたばかりのコルトレーン。録音スタジオにたまたま遊びに来ていたことから参加したというコルトレーンのテナー・サックスは,自信に満ち,朗々とした音色,急速調であってもゆとりを感じるフレーズ,怖いほどの凄さなのである。演奏素人の私にもその凄さ,その違いはハッキリわかってしまうのだ。モブレイにとって,こんなに不幸なことはあるだろうか。この演奏が名盤『Someday My Prince Will Come』に収録されたことから,モブレイには“B級テナー”という冠がついて回ることになってしまったのだ──こうやって私も書いてしまっている──。

 しかし,実際にモブレイの演奏を聴いてみれば,そんなことはどうでもよくなる。『dippin'』はジャズ・ロック調の「The Dip」から始まる。モブレイとリー・モーガンのリラックスした演奏が楽しい。ジャズ・ロックと言えばドラムはビリー・ヒギンズ。ハマり処である。最初のアドリブ・ソロはリーダーのモブレイ。奇を衒わないモブレイらしいアドリブは,ウキウキして踊り出したくなるほどだ。そして次に登場するのがトランペットのリー・モーガン。ヤンチャな子供のような元気の良いトランペットである。
 二曲目が,イーディ・ゴーメのボーカルがテレビCMでも流れ(曲名は「ギフト」だったが)有名になった「Recado Bossa Nova」。当時は『Getz / Gilberto』の影響もあって,ボサノバが流行していたことからの選曲だろう。ソロの順番は「The Dip」と同じく,モブレイ,リー・モーガン,ピアノのメイバーンの順。ボサノバのリズムと哀調を帯びたメロディとが相まって,楽しくて,楽しくて,楽しくて,気が付くといつの間にか涙がこぼれている,といった感じのすばらしい演奏となっている。「The Break Through」「The Vamp」のハード・バップで緊張感を増した後で「I See Your Face Before Me」はバラードと,アルバムの構成も良く出来ている。

dippin' / Hank Mobley (Blue Note 4209)
Hank Mobley, tenor sax; Lee Morgan, trumpet; Harold Mabern Jr., piano; Larry Ridley, bass; Billy Higgins, drums
1. The Dip
2. Recardo Bossa Nova
3. The Break Through
4. The Vamp
5. I See Your Face Before Me
6. Ballin'
Recorded on June 18, 1965 NewYork

【参考】
soul_station
SOUL STATION / Hank Mobley
Recorded on February 7, 1960 NewYork


Someday My Prince Will Come / Miles Davis
Recorded on March 7, 20 & 21, 1961 NewYork

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2005年6月 2日

実録 大西ユカリ・ショウ / 大西ユカリと新世界

oonishi_yukari
実録 大西ユカリ・ショウ / 大西ユカリと新世界

 コテコテの昭和歌謡である。歌謡曲なんかじゃなくて,R&Bだ,ソウルだ,ロックンロールだ,との声もあろうが,そういうモロモロを引っくるめて歌謡曲である。歌謡曲というものは元々そういう猥雑なものだし,そこが魅力なのだ。言わずもがなだが,J-POPなどという屁みたいなものではない。
 このCDが出た頃はまだ大西ユカリの知名度は低く,CDショップでもインディーズ的な扱いだった。いつものようにCDショップ内をぶらついていたところ,このCDのインパクトあるジャケットに目が留まった。たまたまそこのCDショップ(新星堂)には,棚に並んでいるCDの試聴が出来るシステムがあったのが運の尽き,平成のゴッド姉ちゃんこと大西ユカリの魅力にどっぷりハマってしまった。

『あたいのハートは黒光り,連れて行ってよどこまでも…』のイントロショーの後,「幻のブルース」で大西ユカリ嬢登場。いきなり情熱のパワー唱法が炸裂する。
 そしてベタベタの大阪弁によるMCに突入。「ほんまにもう,高いとこからエライすんません。パンツ見えてますか?〜」これがまたすごい。大阪のおばちゃんパワーである。歌とMC,どっちがメインの芸なのかわからなくなる。最初から最後まで,思いっきり笑って,泣いてのパフォーマンスだ。CD 2枚組だが,あっという間に最後まで聴けてしまう。

実録 大西ユカリ・ショウ / 大西ユカリと新世界
大西ユカリ(ヴォーカル),夢ミノル(ドラム,パーカッション),森巧美(ベース),久井コージ,三好ひろあき(ギター),ボス河内(アルトサックス),小松竜吉(テナーサックス),マンボ松本(オルガン),ゴーキャッツ チョセ&パル(踊り子)
ゲスト:横山剣@クレイジー・ケン・バンド,エディ片山(ヴォーカル),Blackbyrd McKnight(ギター)
disc1
1. イントロショー
2. 幻のブルース
3. MC
4. 恋のゴーカート
5. 恋はスバヤク
6. MC
7. 恋の味
8. 赤い夏
9. 黒いオートバイ(with 横山剣)
10. MC
11. 滾り(with 横山剣)
12. 男と女(with 横山剣)
13. 肉体関係
14. 愛の讃歌
15. ABCからZまで
16. MC
17. 北国行きで
disc2
1. ザ・キングストンバッドガール
2. 土曜の夜何かが起きる
3. MC
4. 恋はバツグン
5. キィハントー
6. MC
7. 木屋町旅情(ヤンキーニットでぶっとばせ!)(with エディ片山)
8. メドレー〜天使の憂鬱〜恋のサバイバル
9. MC
10. ナンキバウンド〜ユカリの夏休み〜(with Blackbyrd McKnight)
11. 滾り(with Blackbyrd McKnight)
12. 新ミッチー音頭(ミッチー音頭)
13. Z最終便
14. アンコール
15. 新世界のテーマ
16. 恋のスマートボール
17. 雨の日のあやまち
18. メンバー紹介
2001年12月,東京クロコダイル,京都ウーピーズでのライヴ録音

【参考】
shinsekai
大西ユカリと新世界
 デビュー・アルバムの復刻版。

nanakyoku
七曲入/大西ユカリと新世界
 待望の新アルバム。15曲も入っていて『七曲入』とはこれいかに。

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2005年6月 1日

Art Pepper meets The Rhythm Section / Art Pepper


Art Pepper meets The Rhythm Section / Art Pepper

 名盤中の名盤である。
 一曲目の「You'd Be So Nice To Come Home To」を聴く。軽快なリズムセクションのイントロの後,アート・ペッパーがテーマ・メロディーを吹き始める。アルト・サックスの音が,実に艶やかで張りがある。手慣れた感じのレッド・ガーランドの粋なピアノ,ブラシを使った軽快なフィリー・ジョー・ジョーンズのドラム,それらをサポートするポール・チェンバースのベース。このアルバムの録音状態の良さは特筆に値する。スピーカーの前で目をつぶれば,サックスを吹くペッパーが左側にいて,ヘタすると唾が飛んでくるんじゃないかと感じられるほどの臨場感だ。
 ペッパーのソロに入ると,フィリー・ジョー・ジョーンズはブラシからスティックに持ち替える。ここからのペッパーのアドリブは圧巻である。胸に突き刺さるような印象的なフレーズが次から次に,まさに湯水のように溢れ出るのだ。

 アート・ペッパーはいわゆる破滅型のミュージシャンである。自伝「Straight Life」には,酒や麻薬を断ち切れず,盗みもやめられない,ボロボロの生活を送るペッパーの姿が描かれている。このアルバムには,当日になって突然レコーディングがあることを告げられ,大量に麻薬を打ってレコーディングに臨んだ……という逸話がある。
 破滅型の人間は,危ういまでの繊細さ,弱さを持っていることが多い。かのマイルス・デイヴィス・クインテットのリズムセクション──「The Rhythm Section」と定冠詞「The」が付いていることから,唯一無二の存在であることがわかる──とレコーディングをするということは,繊細なペッパーにとって大きな緊張感,プレッシャーを伴うことであったことは想像に難くない。大量の麻薬は,そんなペッパーに無くてはならないものだったに違いない。このレコーディングに関する逸話にリアリティがあるのは,この日のペッパーのアルト・サックスから流れ出るフレーズが,狂おしいまでに感動的で神憑り的だからである。

Art Pepper meets The Rhythm Section / Art Pepper
Art Pepper, alto sax; Red Garland, piano; Paul Chambers, bass; Philly Joe Jones, drums
1. You'd Be So Nice To Come Home To
2. Red Pepper Blues
3. Imagination
4. Waltz Me Blues
5. Straight Life
6. Jazz Me Blues
7. Tin Tin Deo
8. Star Eyes
9. Birks Works
10. Man I Love
Recorded on January 19, 1957, Los Angeles

【参考】

MUCHO CALOR / Art Pepper
 私の愛聴盤。リンク先のAmazonでは一部試聴もできる。一曲目「Mucho Calor」のペッパーのアドリブが聴きどころ。

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