ブログのアクセス解析を見ていると,非常に驚くことがある。
私のブログに対する検索ワード/フレーズの実質的なトップが,「山口百恵 父親」であることだ。「山口百恵 父」なども合算すると,その結果には寒気,そして胸クソの悪さを感じるほどだ。みなさん,何を恐れ,どんな事実を下世話に探しているんだろうか。
それはたぶん,山口百恵の現役時代からちらほら存在し,20年以上も前に完全に否定された「山口百恵の父親は韓国・朝鮮系」説だろう。それがいまだに亡霊のように残って,YouTubeのコメント欄やネット上の「教えてコーナー」のようなところで,訳知り顔で語られたりしている。
そしてその亡霊は,何度否定されても,ときどきよみがえって恐れられるのだ。

[拙ブログの2010年5月1日から8月10日までの検索ワード/フレーズのリストアップ]
疑問に思ったときには,できるだけ原典に当たるのがよい。山口百恵の情報に関しては,まず山口百恵著『蒼い時』に当たるべきだと思う(もう一冊は後述)。この自叙伝には,下世話な暴露本の類よりも衝撃的な事実が書かれている。出生の秘密,たまにしか会いに来ない憎むべき父親,怖いオバサン(=本妻)……。
父と母は,いわゆる法律的に認められた夫婦関係ではなかった。父には,すでに家庭があり,子供もいた。母を愛しはじめた時,父は母の父に「責任を持ってきちんとします」と言明したという。だが,戸籍に書かれた娘たちの名前の上には「認知」という二文字が置かれている。(『蒼い時』より)
デビュー当時には,これらの事実が隠され,ホリプロからは「幼いころ両親が別れ,父はいません」と答えさせられていたことが,余計な詮索や妄想を生み,山口百恵の父親は韓国・朝鮮系だという説まで生じたと考えられる。
最近では,孔子も李白も韓国がルーツだと主張する人たちがいる国のゴシップ誌に次のような記事が載ると,そんなくだらないことをも信じ込んでしまう人が多いのだ。記事の内容は以下の通りである。
中国の黒竜江日報が発行する「生活報」の今月11日の報道によれば、中国大衆にもよく知られた日本のトップ歌手である山口百恵は韓国人の父を持つ韓国系だ、と紹介した。
山口百恵は1959年、韓国人の父と日本人の母の間に生まれたが、両親の離婚後は母方の姓を名乗り、現在まで母親と一緒に日本人として生活してきた。
(略)日本では芸能界デビュー時に所属事務所の指示に徹底的に従うのが慣例。したがって元々名前を変える意思がなかったこれら韓国系芸能人も元々の姓と名前を隠し、名前を変えて日本人戸籍に登録しなければならなかった、と同紙は伝えた。
山口百恵には所属事務所が緘口令を敷き、父親を認めず韓国の親戚友人とも往来ができないようにしたケースだった。同紙は、韓国の血を引く日本芸能人らは芸能活動に支障を来たさぬよう姓と名前を隠してきたが、「韓流」が徐々に広がる中で彼らの韓国系の出自が改めて注目を集めている、と診断した。
▽聯合ニュース/スポーツトゥデイ(韓国語)(2006/08/13 22:28)
正確な情報さえ知っていれば,なんといい加減な記事であるかがわかる。「両親の離婚後は母方の姓を名乗り」とあるが,百恵の父親には別の家庭があり,百恵のお母さんはいわゆる妾さんである。離婚なんてありようがない。
山口百恵の父親が韓国・朝鮮系ではないかといううわさは,現役時代や引退後にもあった。発生源は複数あると思われるが(後述の雑誌の特集記事に,『噂の真相』や『現代』に載ったいい加減な記事についての記載がある),確かにそのようなゴシップ記事がときどき流れたことを覚えている。しかし,その発生源と思われる記事は,何らかの証拠に基づいたものではなく,「……という言っている人がいる」というレベルの記事なのだ。
と,ここまで書いても,本当のところはどうなんだ,という疑問を持っている人が8.7%ぐらいはいるかもしれない。そう,あなた,あなたのことだ。
そんな疑り深い人が多い世の中である。実際に山口百恵の戸籍を調べようとする人が,出てこないわけがない。
実際にその噂について調べた記事が,創出版の月刊『創』1986年5月号の「山口百恵“韓国ルーツ説”の真相を追う(ルポライター早川和廣氏)」という特集記事である。はっきり言って,これが決定版だ。

[創出版 月刊『創』バックナンバー1986年のWebページ]

[月刊『創』1986年5月号の目次]

[月刊『創』1986年5月号の特集記事「山口百恵“韓国ルーツ説”の真相を追う」]
実際に雑誌を手にとって読んでもらえば,真偽のほどはすぐにわかる。非常に丁寧に,かつ執念深く取材した,読み応えのある素晴らしいルポルタージュになっている。もやもやを晴らしたい方は,なんとか入手して一読することをお薦めする。
結論を簡単にまとめると,百恵の父・Kこと久保茂は旧姓が山本茂で,その父・山本徳太郎,母・イチの二男。大正十年一月に久保コノの養子となる。久保茂の父・山本徳太郎は山本寅吉(江戸時代の人),トミの二男で,戸籍を江戸時代末期まで遡っても韓国とは無関係。母方も同様。
明治三十二年三月から昭和二十五年七月までは旧国籍法の適用下にあったため,外国人でも比較的容易に日本人国籍を取得できたそうだが,江戸末期はその範囲外である。

[「山口百恵“韓国ルーツ説”の真相を追う」の一部]
残念ながら創出版のWebページからバックナンバーを購入することはできないので(25年も前の雑誌だからねぇ),とりあえず見出しを抜き出しておく。
山口百恵“韓国ルーツ説”の真相を追う 早川和廣(ルポライター)
山口百恵に関わる最大のタブー?
根強く噂される“韓国ルーツ説”
『現代』に“告訴する”と抗議
百恵の出生に関する「怪文書」
噂を追って韓国へ飛ぶ
背景に芸能界の民族問題
韓国ルーツ説の要因となった話には,部落解放同盟の朝田善之助氏の文書や,大阪の在日韓国人グループの機関誌の話があることなども書かれていて興味深い。
まあ,とにかく,訳知り顔で「百恵の父親は在日だから」などと言いたがる輩がいたら,鼻で笑ってやればいいのだ。百恵ちゃんは日本人なのだ。
最後に,『朝日ジャーナル』のインタビューで,百恵ちゃんが半ばあきらめの心境で語っている部分を引用しておきたい(引用の引用だ……)。
<エーッ,というようなことが,自分でも知らないようなことが書かれていたりするとなんでだろうって。これはほんとうにどうしてだろうなって思わざるを得ないんですよね。これはウソですっていっても,「ウソです」っていう私の言葉を信じてくれる人のほうが少ないですし,かりに身近な人に,あれに出た記事はウソだからっていったとしても,「でも,雑誌がいくらなんでも,100%ウソは書かないでしょう」って思うと思うんです。(略)こんなにウソ書いて,ありもしないことを並べたてて,平気でいられる人たちがいるんだろうかって思って,それがすごく悔しいというのもあったし,悲しいというのもあったしなんか複雑でしたね>
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