« 「Eye-Fi」旧製品のサポートが終了 | トップページ | 山田線上米内〜川内間は2017年秋以降に復旧 »

2016年7月13日

フォークボールは自由落下しているだけ

 これから新しい変化球は生まれるか?
 早大・矢内教授と高橋尚成氏に聞く
(2016年5月20日 週刊ベースボールONLINE)

 6つに大きく分類した変化球を、オーソドックスなオーバーハンドの右投手、左投手が投げたとき、ボールの変化の大きさと方向を図表化したのが上記の図です。空気の抵抗や揚力を考慮せず、ボールが自由落下した際に到達した場所が真ん中だとしたとき、それぞれの球種の回転軸と回転の方向によってどの場所に到達するかを示した図です。 

 この図を見るとストレートがカーブと並んで大きな変化をしていることが分かります。右投手のオーソドックスなオーバーハンドでは、リリース時に右へ30度程度の角度がつくため、ボールの回転軸も右へ傾きます。そして強烈なバックスピンがかかるため、右上の方向へと軌道は変化するのです。

Photo

 日本では珍しく「チェンジアップやフォークボールは(自由落下以上には)落ちない」ことを書いた記事である。さらにいえば,下向きに自由落下以上に変化するのはカーブだけであることも書かれている。

 10年ぐらい前からメジャーリーグではSPORTVISION社が開発した投球軌道追跡システム「PITCHf/x」を全スタジアムに設置しており(守備や走塁での選手の動きを追跡する「FIELDf/x」もある),ピッチャーの手を離れた位置からホームベースまでのボールの軌道や球速の変化,ボールの回転量,そして無回転だったときの軌道に比べた変化量を,全試合,全球記録している。
 しかも,メジャーリーグ公式サイトのGAMEDAYページで,誰でもそのデータを見ることができる。
 前時代的なスピードガンの数値だけの日本とは大違いである。

 そのPITCHf/xのデータからわかるのは,ボールの変化量はスピン量に比例するということである。

 つまり,スピン量の少ない(=無回転に近い)チェンジアップやフォークボール,スプリットの軌道はほぼ自由落下曲線を描き,自由落下以上には変化しない。

 それとは逆に,強いバックスピンがかかるストレート(特にフォーシーム)は上向きの浮力が加わるため,自由落下曲線よりも直線に近い軌道となり(=落下量が少ない),下向きのスピンがかかるカーブ(昔の言葉で言えばドロップ)は自由落下曲線よりもさらに下向きの力が加わって,より下向きに変化することになる。

 もちろん,自由落下以上には変化しないからといって,そのボールが打ちやすいわけでないことは,実際に野球のゲームを見ればわかるし,野球をしたことのある方なら体感済みだろう。

 大昔,私は野球部でピッチャーをやっていたことがあり,ボールの回転によるマグヌス効果で説明できるカーブの変化やストレートの伸びに対して,なぜフォークボールが落ちるのかがずっと気になっていた。大学の流体力学の授業でナビエ−ストークス方程式やレイノルズ数を習ったときに,無回転ボールの球速の変化が乱流域と層流域を跨がる可能性を考えたりもしたが,まったく的外れだった。学生時代にPITCHf/xのデータがあったら人生が変わっていたかもしれない(意味不明)。

 前にも書いたが,私は大の江川卓ファンである。しかし,一部の江川ファンが「江川のボールは初速と終速の差がなかった」というようなことを言うのが嫌いだ。バックスピンにより直線に近い軌道であることを意味する“ボールの伸び”と,空気抵抗による球速の低下が小さいことを混同しているからである。

151kmh

 江川の全盛期と私の学生時代はほぼ重なるので,テレビの野球中継で江川が投げたゲームはほとんど見ていた記憶があるが,初速と終速が表示された神宮球場などの中継で,江川のボールの初速と終速が近かったことはないし,江川よりボールの遅いピッチャーに比べて,江川の初速と終速の差はむしろ大きかったことは,当時の精度の低いスピードガンでも明らかだった。

 PITCHf/xのデータを見れば,速いボールほど初速と終速の差が大きく,遅いボールは初速と終速の差が小さいことがわかる。バックスピンの効いたボールほど空気抵抗に反する力が働いて終速が落ちないなんてこともないし,回転の少ないチェンジアップやフォークボールのほうが急に速度が落ちるなんてこともない。ボールの球速を低下させる空気抵抗は速さに比例するのだから,速いボールほど大きな空気抵抗を受ける。当たり前である。

 日本のプロ野球では,解説者までもがいまだに「初速と終速が変わらず,手元で伸びるボール」とか「交代したばかりの選手のところにボールが飛ぶ」のような科学的根拠のないことをしゃべりまくっている……

 バックスピンのない140km/hのフォークボールは,ピッチャーの手を離れてから約0.47秒でホームベース上に到達する。ボールは0.47秒間で重力加速度により約1.1m落下する。これがフォークボールが“落ちる”正体である。

 そんなバカな。バッターの手元で急激に落ちているじゃないか?

 フォークボールの落下は重力加速度によるものである。
 落下距離 z は,z = 1/2・g・t²(g は重力加速度 9.8m/s²)で求まるから,ピッチャーの手を離れてから0.47秒間の最初の0.235秒で約27cm落下し,後半の0.235秒で約81cm落下する。バッターの手元で急激に落ちているように見えるのも当然である。

|

« 「Eye-Fi」旧製品のサポートが終了 | トップページ | 山田線上米内〜川内間は2017年秋以降に復旧 »

スポーツ」カテゴリの記事

科学・技術」カテゴリの記事

コメント

大谷選手の160km/hのストレートが空振りをとれない理由をみんなが「初速と終速が変わらず,手元で伸びるボール」じゃないからと言うのを本当だろうかと思ってここにたどり着きました.世間には科学的根拠のないことを平気で言う解説者とそれを信じて広めるファンがあふれていますね.「江川のボールは初速と終速の差がなかった」というコメントを口にする人全員に三日画師さんのブログを読んで欲しいです.

投稿: マイケル | 2016年9月17日 22時14分

 コメントありがとうございます。
 ほんと,科学的な根拠のないことを言う人が多くて困りますね。

 大谷翔平選手の160km/h越えのストレートが空振りを取れないことには興味を持っています。ピッチングフォームが理想的・合理的なため,バッターから見てボールが見やすい,タイミングを合わせやすいんじゃないかと思っています。とはいえ,ほとんどはファウルで,前に飛んでもポテンヒット。まともには打たれていないですね。

 野球のボールだと,大ざっぱに言って空気抵抗は速球の場合速度の二乗に比例,スローボールの場合は速度に比例するので,大谷選手の160km/hのボールが初速と終速で球速が変わらないなんてことはあり得ず,初速と終速の差も日本一大きいことになります。でも,終速ももちろん日本で一番速いわけですから,それが空振りをとれない理由にはなり得ませんね。

投稿: 三日画師 | 2016年9月18日 12時45分

私も大谷選手のストレートはタイミングがあわせやすいのだと思いました.今までよく言われるボールの伸び(キレ,球質とか言われている)とはなんのことやらわからなかったのですが,三日画師さんの記事をみて理解が深まりました.きっとボールの伸びがないときにバットに当てられてしまうのでしょうね.しかし,速いからまともには打てないのでしょう.
以下の動画が参考になったのでもしよろしければご覧になってください.
https://www.youtube.com/watch?v=hXVFhsbo_xo

投稿: マイケル | 2016年9月18日 21時29分

 動画のURLありがとうございました。
 動画の中で図示されているボールの絵が,4シームではなくすべて2シームなのはちょっと気になりましたが,それ以外はなかなか興味深かったです。

 同じスピードでも伸びのあるボール(意図的に投げるのが4シーム)と,伸びのないボール(意図的に伸びをなくすのは2シーム=打たせて取る)がありますね。4シームを投げたつもりでも,ボールの回転軸が傾いて伸びがなくなってしまうことはあるでしょうね。

 大谷投手のピッチングフォームが昨年よりも少しスリークォーター気味になっているとして,肩や肘への負担がそれで小さくなるのならば,それはそれでアリかと思っています。できるだけ故障せずに進化していってほしいです。

投稿: 三日画師 | 2016年9月19日 09時32分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: フォークボールは自由落下しているだけ:

« 「Eye-Fi」旧製品のサポートが終了 | トップページ | 山田線上米内〜川内間は2017年秋以降に復旧 »