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2005年2月23日

PANGAEA / MILES DAVIS


PANGAEA / Miles Davis

 大好きな音楽についても,かすかだってみる。今日は,原因不明の腰痛で会社を休んでしまい,一日中エビのような形で寝転がっていたため,変わったことをしたくなったのかもしれない。

 まず最初はマイルス・デイヴィスの『PANGAEA(パンゲアの刻印)』。1975年に来日したマイルスの大阪でのライブ録音だ。同じ日に録音された姉妹盤の『AGHARTA(アガルタの凱歌)』は昼のステージ,『パンゲア』が夜のステージの録音である(二つ合わせて通称「アガ・パン」)。
 レコードには「聴覚が麻痺しない範囲の大音量でお聴きください」という注意書きがあって面白い。持っているCDは輸入盤だが,同じ注意書き(アガルタには「住宅事情が許す範囲の大音量でお聴きください」とある)が輸入盤にも書かれているかどうかは確認していない。

 私が最初にレコードというもの買ったのは高校時代である。買ったのはマイルスの『Cookin'』,そしてこの『パンゲア』の2枚。『パンゲア』は2枚組だから,金のない高校生にしては大金だった。さらに,レコード購入のわずか数ヶ月前までは,友人達が熱中していたフォークソングやロック,ポップス,そして歌謡曲にも興味が無く,家族で夕飯を食べるときに歌謡曲番組を見る程度で,音楽を聴くという習慣はほとんど無かった私が,いきなり『パンゲア』である。我ながらその無謀さに驚かされる。

 きっかけはラジオだった。ラジオから流れてきたボーカルのない奇妙な音楽が心に残った。誰が演奏しているのかはわからなかったが,それがジャズという音楽だということを知った。頭でっかちになりがちな若き高校生である。それから本屋でジャズの本をあれこれと立ち読みし,どうやらマイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンという人がジャズの世界では偉い人らしいという知識を得て,その偉い二人が両方とも入っているお買い得な『Cookin'』と当時話題の新盤『パンゲア』を買ったのだった。

 予想通りのレコードだった『Cookin'』には大満足だったが,『パンゲア』の音楽は期待していたジャズとは全然違っていて,その当時は大失敗だったと感じ,毎日『Cookin'』ばかり聴いていたものだった。それから30年,「ウッドベースの4ビートじゃなければジャズじゃない」「エレクトリック・マイルスは堕落である」と突っ張って主張していた知ったかぶりの学生時代を経て,今では『パンゲア』や『アガルタ』を聴くことのほうが圧倒的に多くなっている。時の流れとは面白い。学生時代の私を知る人には「変節」「転向」と感じられるかもしれない。

 と,前書きが長くなってしまった。1曲目 ──と言っても,2枚組CDに合計2曲しか入っていないから,1枚目と言っても間違いじゃない── の「ジンバブエ(Zimbabwe)」は,アル・フォスターの突っ走るようなドラムで始まる。突っ走るというより,突っかかる感じ。マイケル・ヘンダーソンのエレキ・ベースの後,すぐに右手(右耳)側からレジー・ルーカスのカッティング・ギターが入ってきて,いかにもこの時期のマイルス・バンドの音になる。メンバーの中で最も地味に思われるレジー・ルーカスが,実はマイルス・バンドの音を特徴づけていたと言えるかもしれない。さらに左手側からピート・コージーのグジャグジャのギターが入り,機が熟したところでマイルス・デイヴィスが登場し,鋭いトランペットを吹きまくる。そこにソニー・フォーチュンのソプラノ・サックスが絡んでくる……,後は音の洪水,洪水。ムトゥーメのパーカッション,ピート・コージーの何でもあり的なギター・ソロ,そして「卵の殻の上を歩く」と言われたアコースティック時代を凌駕するマイルスの繊細なトランペット。レコードで聴いていた頃には,レコード盤や針の摩耗が気になったが,CDになり,さらにiPodで聴くようになってからは,もう何も気にならず,何度も何度も繰り返し聴いている。

 2曲目の「ゴンドワナ(Gondwana)」はソニー・フォーチュンのおどろおどろしいフルートで始まる。途中で「ワォッ」という歓声をあげたのがメンバーの誰かなのか観客なのかはわからない。フルート・ソロの後,5分過ぎから10分頃までマイルスが感動的なトランペットが続く。ムトゥーメがそれに絡む。マイルスのトランペットは,いかにもトランペット・ソロでござい,というような朗々としたストレートな演奏ではない。その対極にあるかのような,暗い音をくずしたグチャグチャな,しかしドラマチックなソロである。こういうマイルスのすごいトランペットを聴くと,他のトランペッターの演奏がクリシェを繰り返すだけの薄っぺらなものに聞こえてきてしまうから恐ろしい。

 そして最高のクライマックスは,28分過ぎ,アル・フォスターの強烈なシンバルの連打の後にやってくる。マイルスのソロである。映画『十戒』の一シーンのように荒れた海が二つに割れ,静まりかえったその中をトランペットを地面に向けたマイルスがゆっくり歩いてくるかのような演出である。マイルスといえばアコースティック時代は,たとえば『'ROUND ABOUT MIDNIGHT』でマイルスのリリカルなソロをコルトレーンの荒々しいテナーが引き継ぐという,「静→動」という構成が多かったように思うが,この時期には「動→静」という逆の構成を好んで使っているように感じられる。

 このアルバムを「ジャズとは認めない」と言って拒絶する人は多いし(私も若い頃はそうだった),はっきり言って誰にでも勧められるような大衆迎合的な音楽でない。でも,このアルバムのマイルスのソロに感動しない人がいたら,たぶん音楽的に不感症なのではないかと(今の)私には思えてしまう。


PANGAEA / Miles Davis

Miles Davis, tp, org; Sonny Fortune, ss, as, fl; Pete Cosey, g; Reggie Lucas, g; Michael Henderson, el-b; Al Foster, ds; Mtume, per.
1. Zimbabwe
2. Gondwana
Recorded on February 1, 1975, Osaka

【参考】

AGHARTA(アガルタの凱歌) / Miles Davis


Cookin' / Miles Davis

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コメント

初めまして、grandtrick920といいます。
僕も「アガ・パン」は大好きで、しょっちゅう大音量で聴いてます。
それにしても「Cookin'」と「パンゲア」というのも、おもしろい組み合わせですね(笑)。

投稿: grandtrick920 | 2005年5月 5日 01時19分

grandtrick920さん,こめんとありがとうございます。
連休初日,上越新幹線に乗るために東京駅へ行ったとき,駅構内の本屋さんのBGMにマイルスの「On The Corner」が流れたときにはビックリしました。時代が追いついてきたのかもしれません。

#よくわかっていなかった頃に買ったレコードの組み合わせですから……

投稿: 三日画師 | 2005年5月 6日 06時38分

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