2016年9月18日

iPhone 7 登場。やっぱりAppleは変態だった

iPhone 7 登場

 日本時間の9月8日午前2時に開催されたAppleのイベントで iPhone 7 が発表され,9月16日に一斉に発売された。

 やっと防水仕様になったことや,日本独自規格になりそうだったFeliCiaに対応したこと,ホームボタンが物理ボタンからタッチセンサーになったこと,そしてとうとう忌まわしき「Dライン」がなくなったことなどが注目されている。

 iPhone 7を見て,個人的には「やっぱりAppleは変態だ」と思った。なぜならiPhone 7は,大量生産が必要な民生品にはあり得ない製造方法で作られているからだ。

 まず,iPhone 7発表前にリークされていた画像を見てほしい。

iPhone 7 リーク画像

 この写真を見て,私はカメラ部分の出っ張りに落胆するとともに,板金プレス加工かプラスチックの射出成型品のように見える外観に,とうとうApple社がiPhoneボディのアルミ合金切削加工をやめるのかと思った。

 なぜなら……

iPhone 7 リーク画像に追記

 このリーク画像のカメラ部分の出っ張りの赤線部分は,小径のボールエンドミルもしくは特殊なエンドミルによる加工が必要な「微小な内R(インナーR)」からテーパーに繋がる形状になっているからである。
 出っ張りが小さいので加工が不可能というわけではないが,そこまでして加工するほどカッコいいデザインではない。上にも書いたように,こういう形状は安上がりな板金加工や射出成形品によくある形状である。

 ひょっとしたらプラスチックの射出成形ではなく,以前話題になったリキッドメタル(射出成形が可能な金属)がとうとう採用されるのかとも思った。

 だが,登場したiPhone 7のカメラ部分の出っ張りはリーク画像とは全然違っていた。

iPhone 7 カメラ周りの形状

 リーク画像の赤線部分にあった「内R(インナーR)」のR寸法が大きく,太めのボールエンドミルで加工できる形状になっているのである。

 そう,Apple社はiPhone 7の筐体のキャビティ部分(部品の入る凹み側)だけでなく,iPhone 6sまでは簡単な仕上げ加工しか必要としなかった背面までも,カメラ部分の出っ張りを残してアルミ合金切削加工を行うことにしたのだ。ヘンタイならではの選択である。

iPhone 7 エンドミルで削り出し

 上図は,アルミニウム合金ボディの背面を,カメラ部分の出っ張りを残してエンドミルで切削加工しているところの写真である(カメラ部分のキャビティを切削している)。酔狂にもほどがある製造方法だ。

 日本のメーカーのメカ技術者には,こんなことをブログに書いている私のような暇人は少ないから,その界隈から特に大きな声が聞こえてくることはないが,「こんなのを切削で作るのかよ〜?」「意味わかんねぇ〜」「ふつう別パーツで作るだろ〜」という地響きのようなため息が聞こえてくるのを感じた。

 それほどまでにApple社の技術者はヘンタイ(もちろん褒め言葉)なのである。

iPhone 7 3D回転研磨

 カメラ部分の出っ張りをエンドミルで切削加工できたとしても,どうしてもツールマーク(やカッターマーク)は残る。表面に陽極酸化皮膜処理をする前に,ツールマークなどをきれいにするため,一般的なバフ研磨処理をするのではなく,「3D回転研磨」という処理を行っている。

 この「3D回転研磨」処理については,どういう技術なのかよくわからなかった。カメラ部分の出っ張りを不用意に研磨しすぎないような処理なのだろうとは思われる。バレル研磨とバフ研磨の中間のようにも見えるが,より精密な研磨処理のだろう。

iPhone 7 酸化皮膜を磨く

 ジェットブラックの仕上げでは,さらに凝ったことをしている。陽極酸化皮膜を付け,多孔質部分に染料を染み込ませた後で(ふつうはここで仕上がり),研磨剤を含んだ磁性流体を使って表面を高精度に研磨しているのだ。磁性流体の磁場などを調整することで研磨剤の特性を制御できるのが特徴らしい。

 そうして,とうとうジェットブラック仕上げの美しいiPhone 7が出来上がる。美しい表面仕上げにここまでこだわったiPhoneであるから,ユーザーはみすぼらしいケースなどに入れたりせずに,ぜひとも美しいままの姿で使用してほしいものである。

 iPhone 7 の筐体にリキッドメタルは使われなかったが,筐体の仕上げに磁性流体が使われた。
 5年ぐらい前に,Apple社がリキッドメタルの使用ライセンス契約を取得したとき,リキッドメタルと磁性流体を混同してしまう人が後を絶たなかったが,意外なかたちで磁性流体とiPhoneが関わることとなった。

 さて,私は現在 iPhone 5s(64GB)を使用している。約3年間使用し続けていて,バッテリーがかなりへたってきており,そろそろ機種変更を考えているところだ。

 iPhoneを片手で使用したいのと,カメラ部分の出っ張りが嫌いなので,乗り換えるならばiPhone SEかと思っているのだが,iPhone SEのストレージ容量が最大64GBしかないため,躊躇しているところである。
 MacのiTunesに入っている音楽を全部iPhoneにも入れたいので,少なくとも200GBの容量がほしい。

 iPhone 7は片手で使うには大きすぎ,カメラ部分は出っ張っているが,最大容量256GBのモデルがある。さてさて悩ましすぎる……

【関連記事】
2015年10月 4日:iPhone 6s発表。落胆そして感服
2013年10月20日:iPhone 5sのホームボタンの話
2013年9月12日:斜め下からの目線でiPhone 5cに驚く
2013年3月 3日:デザインに対するAppleの拘泥ぶりが恐ろしい
2010年10月21日:新MacBook Air登場:Unibodyはやっぱり凄い
2010年6月10日:Apple iPhone 4 びっくり仰天のハードウェア

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2016年9月 6日

デジタル一眼レフ PENTAX K-1 極私的評価

      〈 一風変わった視点から大ざっぱに重箱の隅をつつく 〉

 リコーイメージングから登場した待望のフルフレームデジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-1」。入手してから約4か月が経ったので,実際に使ってみての私なりの印象を書き留めておくことにする。

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 まず前提条件として,私がどのような環境でPENTAX K-1を使っているかを説明する必要があるだろう。

 銀塩フィルム時代からLXやMZ-SなどのPENTAX Kマウントのカメラと,F3HPやF5などのNikon Fマウントのカメラを併用してきたこともあって,フルフレームのデジタル一眼レフカメラとしては,Nikon D3,D800E,そして一眼レフではないがミラーレスカメラであるソニーα7Sを使用している。PENTAXのAPS-C一眼レフはK-5 IIsを使用していた。

 これらのカメラ同士を比較して評価してみる。何やら数値を測定したり,同じものを撮り比べて画質を比較するのは面倒なので,あくまで私の感覚による極私的評価であることをあらかじめ断っておきたい。

 現在使用しているカメラ同士のスペックを比較すると次のようになる。D800Eやα7Sは最新のカメラではないので,とりあえず参考としての比較である。

価格コムでのカメラ比較
K-1・D800E・α7Sの比較(価格.comのカメラ比較ページより)

■ ボディサイズや質量についてあれこれ

 スペック比較表(K-1の連写撮影の数値6.5コマ/秒はAPS-Cクロップでの数値であり,フルフレームでは約4.4コマ/秒が正しい)からわかるように,K-1はD800Eとモロに競合する製品である。この2機種に対してα7Sは画素数を控えて高感度での撮影にやや特化しているのと,ボディサイズが小さく,質量も約半分しかない。

 実際に手にした感覚も,K-1とD800Eはほとんど同じような重量・ボリューム感である。

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〔Nikon D800EとPENTAX K-1の比較〕

 私は一眼レフには基本的に縦位置グリップ(バッテリーグリップ)を付けて使用している。縦位置グリップ付きのサイズはD800EよりK-1のほうがわずかに小さいように見えるが,使用していて差は感じない。

 縦位置グリップを付けるとカメラはどうしても大きく,重くなってしまう。縦位置グリップ一体型のNikon D3と同じぐらいの大きさになってしまうのだから困ったものだ。横位置で撮影する場合でも,小指まで使ってしっかりカメラを握りたいのだからしかたがない。

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〔Nikon D3とPENTAX K-1の比較〕

 縦位置グリップの話を続ける。

 私はとてもミーハーなので,カメラは見た目が重要だと考えている。Apple社のMacBookのように,性能には関係のないノートPCの裏側の見た目にまで気を配った設計に魅力を感じるのである。その点で,PENTAXの一眼レフの底面のデザインには,ガッカリさせられることが多い。K-1もその悪しき伝統を引き継いだ底面だった。本ブログに写真を載せるのを控えたくなるほどである。

 さらに,PENTAXに限らず,カメラの底面にはCEマーク(EU基準適合マーク)やらFCC認可マーク,シリアルナンバーなどのシールがべたべたと貼られている。日本製のノートPCの底面とまったく同じで見苦しく不快である(あっ,日本製ノートPCは天板やパームレストにもべたべた貼ってあるか)。

 実は,縦位置グリップにはそれらの見苦しいさまを隠してくれる効果もあるのだ。

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〔PENTAX K-1の縦位置グリップD-BG6の底面〕

 縦位置グリップ「D-BG6」を付けたK-1の底面は,日の当たる日中にカメラを公衆の目にさらしても恥ずかしくないだけの外観となる。

 また,D-BG6の側面にはストラップを通す金具が付いている。縦位置グリップを付けたK-1にストラップを通すときは,通常のようにカメラの上部両サイド2カ所にストラップを付けるだけでなく,カメラに向かって左サイド2カ所にストラップを付け,カメラを横向きにぶら下げることもできるようになっている。古い銀塩カメラ時代からPENTAXに引き継がれる伝統だ。めでたしめでたし。

 とはいえ,K-1プレミアムデビューキャンペーンの景品として縦位置グリップD-BG6が送られてくるまでは,心配で心配でならなかった。それまで使っていたPENTAX K-5 IIsの縦位置グリップD-BG4などと同様に,縦位置グリップの底面が凹凸のない「のっぺり」とした平板ではないかという不安があったからである。

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 PENTAX K-5 IIsの縦位置グリップD-BG4の底面は,こんな感じでまったく凹凸のない「のっぺり」とした平面だった。こんなのだったら,たとえ景品でもらった縦位置グリップでも残念無念で三日ぐらい寝込むところだった。

 PENTAXの一眼レフの縦位置グリップにはもうひとつ大きな問題がある。「三脚穴の位置」である。縦位置グリップを付けると,三脚穴の位置がレンズ軸から横にずれてしまうのである。

 三脚穴の位置がレンズ軸からずれてしまう原因は,PENTAXがK-7の頃から何世代にも渡って使い続けているLi-IonバッテリーD-LI90Pの構造にある。

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〔PENTAX Li-IonバッテリーD-LI90P〕

 縦位置グリップを外して,バッテリーフォルダーと三脚穴用雌ねじの位置関係を観察すれば,理由は一目瞭然である。縦位置グリップ内部の三脚穴用雌ねじの出っぱりにバッテリーが当たらないようにするためには,バッテリーをグリップ内部においてカメラのボディ側に寄せなければならない。
 しかし,Li-IonバッテリーD-LI90Pの4つの電極は上記写真の左上のように,バッテリーの厚み方向の面に付いているため,縦位置グリップのバッテリーフォルダー上面側(ボディの底面側)に,D-LI90Pの4つの電極と接触するバネ構造の電極を設置しなければならないのである。

 縦位置グリップ内に,バネ構造の電極,D-LI90Pバッテリー,バッテリーフォルダー,三脚穴用雌ねじを高さ方向に重ねると,縦位置グリップが縦に長くなってしまうため,しかたなく三脚穴用雌ねじをバッテリーと干渉しない位置までずらしている。それがレンズ軸と三脚穴がずれてしまう理由だ。

 新しいカメラを買っても,それまで使い続けたバッテリーや充電器が継続して使用できるのは大変嬉しいし,それに関してはメーカーに最大限の賛辞を贈りたい。

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〔NikonのLi-IonバッテリーEN-EL15〕

 NikonのLi-IonバッテリーEN-EL15のように,バッテリーの肩部に電極を設け,縦位置グリップの内部にはバッテリーの厚み方向の電極を必要としない構造のバッテリーにすれば,三脚穴用雌ねじをずらす必要はなくなる。

 参考までにD800Eの縦位置グリップMB-D12の底面の写真を載せて,縦位置グリップの話は終わりたい。

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〔Nikon D800Eの縦位置グリップMB-D12の底面〕


■ 第3のダイヤルでとうとう完成した「ハイパー操作系」

 ハイパー操作系は,他社カメラを使ってきたユーザーには理解しにくいのと同時に,通常の前後2つのメイン・サブダイヤルだけでは完結しない操作系だった(レンズの絞りリングが使用できる場合を除く)。K-3 IIまでのハイパー操作系では,露出補正のために露出補正ボタンを押しながらダイヤルを回すという,まことに忌まわしい操作が必要だった。

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 K-1に第3のダイヤル,つまりスマートファンクションと設定ダイヤルが追加され,ハイパープログラム・ハイパーマニュアル時の露出補正もダイヤルひとつを回すだけで済むようになった。まさに「ハイパー操作系」の完成である。

 ハイパープログラム・ハイパーマニュアルを使う限り,D800Eやα7S,世の中のその他のカメラのように,絞り優先AEやシャッター速度優先AE,プログラムAEをいちいちモードダイヤルを回して設定する必要はないし,マニュアル露出時に前後のダイヤルをカチカチ回して露出を調整する必要もない。

 撮影時の露出調整のしやすさに関しては,K-1=圧勝,D800E=旧態依然,α7S=まるでダメ男という印象だ。

 この件に関しては,2015年11月26日に『PENTAXのハイパー操作系がとうとう完成へ』という記事を書いているので,そちらを読んでほしい。


■ シャッターボタンとシャッター回り

 K-1のシャッターボタンが,K-5 IIsやK-3のようなクリック感のあるタイプではなく,PENTAX 645ZやNikon D800EやD3その他のD一桁機のように,クリック感のないタイプになったことを祝って祝杯をあげようではないか!(参考:2016年3月23日『K-1のシャッターボタンはクリック感なし!』

 K-1やD800Eのシャッターボタンのレリーズ感覚は滑らかで,半押しからゆっくり全押しするまでに何の引っかかりもクリック感もなく,すぅ〜っとレリーズに至る。とても上品だ。

 シャッターボタン半押し位置から全押し位置までのストロークは,K-1のほうがD800Eよりも若干大きめに感じた。D800Eの短いストロークに慣れているためか,シャッターボタンを半押ししたまま続けてシャッターを切ろうとすると,シャッターボタンが半押し状態まで戻っていないため,全押ししてもシャッターが切れないことが何度もあった。この点については慣れが解決してくれるかもしれない。サービスセンターなどへの持ち込みで,ストロークの調整をしてくれるのならそれに越したことはない。

 それに対してα7Sのシャッターボタンは,クリック感がないのは良いのだが,シャッターボタン動作の軸外方向に微妙なガタがあって,レリーズする瞬間にシャッターボタンがグニっと横にずれる感覚がある。今までにたくさんのカメラを使ってきたが,過去に経験したことがない安っぽさである。

 α7Sには「サイレント撮影モード」という最強の撮影モードがある。シャッター音を“完全に無音”にできるのである。こればかりは一眼レフカメラにはマネできない。

 K-1とD800Eのシャッター音はかなり大きい。PENTAXのK-5 IIsのシャッター音はとても小さく,柔らかい感じだったが,それに比べるとK-1のシャッター音はメカニカルな感じで甲高く大きい。D800Eのシャッター音も大きく,やや緩んだバネのような音(たぶん制振部材かな)が混じる。後継機のD810では静音化,ショックの低減が図られていてうらやましい。

 光学ファインダー周りはK-1とD800Eで互角と言いたいところだが,残念ながらK-1はスクリーンの交換ができない。スクリーン交換ができなくても,透過型液晶による構図用9分割グリッド表示はできる。しかし,9分割グリッドは写真の水平を取るためにはあまり役に立たないため(9分割グリッド表示が水平を取るために役立たないことは別記事にまとめてある),D800Eのような16分割グリッド表示,もしくは25分割グリッド表示がほしかったところだ。
 α7SはEVFであるため,25分割グリッド表示が可能だ。ただし,光学ファインダーのグリッドと違ってグリッド線が太くてじゃまくさい感じがする。

 写真の水平を確認するための16分割グリッド表示ができないK-1ではあるが,良い写真には水平が重要だと考えるユーザーへの最強の助っ人「自動水平補正機能」が付いている。被写体をグリッド線に合わせて水平・垂直を確認したりせず,全体の構図やピントなど他のことに注意を集中させながらでも,カメラが自動的に水平を出してくれる機能である。9分割グリッド表示しかできないK-1の弱点を補って余りある機能だ。


■ レリーズタイムラグ

 シャッター周りで重要なレリーズタイムラグは下表の通りである(データは「IMAGING RESOURCE」のサイトから)。

PENTAX K-1  Nikon D800E  SONY α7S
Shutter Response  0.086 sec 0.043 sec 0.024 sec
Shot to shot <0.30 sec 0.42 sec 0.53 sec

 ここで,Shutter Responseはシャッターボタン半押しでAFロック後,シャッターボタンを全押ししてからシャッターが切れるまでの時間(つまりレリーズタイムラグ)である。Shot to shotは,単写モードでLargeサイズのJPEGで写真を撮った後,次にシャッターが切れるまでに掛かる時間の平均値である。

 K-1はPENTAXの一眼レフにしてはレリーズタイムラグが短いと言われていたが,レリーズタイムラグは0.086秒であり,あまり速くなっていない。0.065秒ぐらいになっていることを期待していたので,ちょっと残念な結果である。
 同じシャッター速度での光学ファインダーのブラックアウト時間は,K-1のほうがD800Eよりもほんの少しだけ長いように感じられる。

 レリーズタイムラグに関しては,やはり電子先幕シャッターが使えるα7Sが断然有利である。一眼レフカメラはどうしてもミラーアップする時間が必要になるため限界がある。
 α7Sで電子先幕シャッターをOFFにすると,レリーズタイムラグは0.168秒になってしまうので注意が必要である。

 Shot to shotの数値は,街を歩きながら,通りかかる人や車を避けて町並みを撮影するときにはとても重要になる。写真を1枚撮った直後にそれを上回るシャッターチャンスがやってきたときに,自由なタイミングですぐに次の写真が撮れるかどうかを表す数値だからである。
 一般的にコンパクトデジカメはこのShot to shotの数値が大きく,狙ったタイミングでシャッターボタンを押しても,思い通りにシャッターが切れないという事態が発生しやすい。

 たとえば,Canonの高級コンパクトデジカメ G1 X Mark II のShot to shot timeは,Large Fine JPEG時に1.01秒,RAW時には1.14秒,83倍ズームを誇るNikonの P900 のShot to shot timeはLarge Fine JPEG時に1.36秒もある。連写モードでは1秒間に約7コマも撮影できることをウリにしているカメラでも,1枚撮った後は1.36秒も待たないと,次のシャッターが切れないのだ。

 その点でK-1の0.3秒以下というのは,ほぼ思い通りのタイミングでシャッターが切れるということになる。今まで普通に商店街や町並みを撮影していて,D800Eで思い通りにシャッターが切れなかったという記憶はなく,α7Sでは何度か経験したことを覚えている。Shot to shot timeが1秒以上あるコンパクトデジカメでは何度も経験している。もちろん他の要因が重なった可能性もあるので,断定的することはできないが,私の使い方だと0.5秒あたりに感覚の閾値があるのかもしれない。


■ 画質について

 私はRAW現像などという面倒なことが嫌いなので,よほど明暗差の大きなところでなければJPEGオンリーで撮影している。そして,K-1のJPEG画質には満足している。
 他のデジカメとは比較にならないほど絵のカスタマイズが可能なので,ダイナミックレンジ拡張のハイライト補正・シャドー補正の他に,大ざっぱにいうとコントラスト低め,暗部持ち上げの設定をかなり強めにかけている(他の人にはお薦めしない)。

 K-1のダイナミックレンジは広く,撮ったJPEGデータの暗部をさらに持ち上げても,ノイズまみれになることはない。超高感度撮影では,ISO感度100〜204800のK-1よりも,ISO50〜409600(拡張時)が可能なα7Sのほうが優れていることになるが,α7Sの低感度でのダイナミックレンジは意外なことにK-5 IIsよりも狭く,撮った写真の暗部を大きく持ち上げると,ガッカリするほどノイズだらけになる。

 通常感度での画質は,K-1>D800E>α7Sの順番になる印象だ。


■ 話題のフレキシブルチルト液晶について

 K-1で三脚を使っての撮影を行っていないので,フレキシブルチルト液晶の真価は不明。液晶を上に向けると,ウエストレベルでの撮影が簡単にできるのは便利だ。ただし,シャッターボタンがボディ上面(軍艦部)ではなく,前方に傾いたグリップ上部に付いているため,ウエストレベル撮影のときに右手親指でシャッターボタンを押しにくい。ISOボタンをシャッター代わりに使えるようにカスタマイズできれば,なお便利になるだろう。

 α7Sでもウエストレベル撮影はできることになっているのだが,EVFと液晶ディスプレイとの自動切り替えの感度設定が悪く,ウエストレベルでは腹部の赤外線などを検知して勝手にEVFに切り替わってしまい,残念ながらまともに撮影できない。設定メニューでEVFと液晶ディスプレイを切り替えることはできるが,機動性に欠ける。


■ 簡単なまとめ

【K-1の良かった点】
・3ダイヤルで完成したハイパー操作系
・がっちりした防塵防滴ボディ
・高画質
・高ISO感度
・広いダイナミックレンジ
・歪みの少ない光学ファインダー
・旧機種と共通のバッテリー
・自動水平補正機能
・高いカスタマイズ性
・APS-C用のDAレンズでも十分な画素数

【K-1の残念な点】
・デフォルトのJPEG画像がシャキッとしない
・16分割・25分割グリッドのスクリーンがない
・機能詰め込みすぎで質量増大
・レリーズタイムラグが0.086秒と大きめ
・(D800Eに比べると)バッテリーの持ちが悪い
・Wi-Fi接続アプリが非常に使いにくい
・K/Mレンズの絞り値情報を伝達するレバー復活せず

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2016年9月 4日

JR九州が長崎駅西側移転のイメージを公表

 長崎駅、22年度に西側へ引っ越し 新幹線開業で再開発(2016年9月1日 朝日新聞)

 JR九州は、博多―長崎を結ぶ九州新幹線長崎ルート(長崎新幹線)が開業する2022年度の長崎駅周辺の再開発イメージを公表した。

 現在の在来線駅の西側に、新幹線駅を新設。さらに在来線も高架化して西側に移す。空いた敷地に新しいビルを建て、商業施設やホテル、オフィスなどを入れることを検討している。

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〔JR長崎駅とかもめ広場(2012年4月30日撮影)〕

 JR九州が発表したイメージは,既に長崎市が「長崎駅周辺まちづくり基本計画」や「長崎駅周辺土地区画整理事業」計画として公表している内容と同じで,特に新しい情報はない。

 長崎市の長崎駅周辺土地区画整理事業のページから,長崎駅周辺の整備イメージを引用する。ただし,そのままだと地図の上が西を向いていて現在の地図と比較しにくいため,90°左回転させて,地図の上を北に向けている。


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〔長崎駅周辺の整備イメージ(長崎市の長崎駅周辺土地区画整理事業のページより)〕

 計画では,現在の在来線駅の西側に隣接した長崎車両センター(車両基地)を早岐駅の佐世保車両センターに移設し(2014年3月15日に移転済み),長崎車両センターの跡地に高架化した長崎本線と新幹線の長崎駅を移転することになっている。現在の長崎駅の在来線ホーム一帯は東口駅前広場となる。

 駅が西側に大きく移動するため,現在長崎駅の改札口の前にあるアミュプラザ長崎・かもめ広場と新駅舎の間には大きなスペースが生まれる。上記整備イメージ図では「開発予定地」となっていて,ここには新しい商業施設が建てられることになりそうだ。

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〔写真右が現長崎駅,左が長崎車両センター〕

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〔国道202号線(大波止場通り)と長崎駅前電停〕

 駅前を通る国道202号線(大波止場通り)には長崎電軌の路面電車の長崎駅前電停がある。JR長崎駅から国道の真ん中にある長崎駅前電停までは現在約100mの距離だが,新しい駅舎になると250mぐらい離れてしまう。
 これでは公共交通機関の結節点としての機能が弱まるため,新たに駅の高架下の東西を結ぶ道路「トランジットモール線」を設け,路面電車を新幹線・在来線の高架下まで引き込むことになる。

 現在の長崎駅前電停へのアクセスは横断歩道からの階段しかなく,バリアフリー化からはほど遠い。新しい駅前広場と面一のトランジットモール線に路面電車が乗り入れることによって,とうとうバリアフリー化が実現する。

 ただし,上記整備イメージ図にはトランジットモール線にどのように路面電車を引き込むかが描かれておらず,路面電車の引き込みをあきらめているようにも読み取れる。また,このままだと東口駅前広場に乗り入れた一般車両はトランジットモール線に抜けるようになると読めるため,公共交通機関と歩行者の通行だけを認める“トランジットモール”の定義に反しているようにも思われる。もう少し詳細な情報が必要だ。

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〔飲食店が多い長崎駅前商店街〕

 心配なのは大黒町の長崎駅前商店街だ。

 まず,長崎駅が150mぐらい商店街から遠ざかる。さらに,長崎電軌の長崎駅前電停を利用するために国道202号線の歩道橋を渡る人から見れば,そこから階段を下りるだけで飲食店が多い駅前商店街だったのが,JRから路面電車に乗り換える客はトランジットモール側を利用することになるため,駅前商店街に架かる歩道橋を利用しなくなる。

 長崎駅前が全体的にバリアフリー化して地上を歩く人が増えると,歩道橋の上り下りが必要になる駅前商店街は心理的に遠く感じるようになるだろう。たとえば,長崎を発つ前に長崎ちゃんぽんや皿うどんを食べようと思った来街者が,どうせ食べるならば駅ビルの飲食店ではなく,町の中華屋で食べたいというような私のような人間でも,駅ビルで済まそうと思うことが増えてくるに違いない。

 長崎市としてもその点は考えていて,「長崎駅周辺まちづくり基本計画」において,“地区全体の歩行者空間ネットワークは 1 階レベルを主動線とし、国道横断部におい ても、バリアフリーの観点から平面横断を目指す”としている。交通量の多い国道202号線(大波止場通り)に歩行者の平面横断手段(横断歩道だろうけど)を確保するのは大変難しいが,路面電車の電停と一体化できれば理想的だ。

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〔かもめ広場と長崎駅。かもめ広場と改札口とホームが同一面上にあることがわかる〕

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〔長崎駅の改札口から見たかもめ広場とアミュプラザ長崎〕

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〔頭端式ホーム3面5線の長崎駅〕

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2016年8月29日

日本から迷走台風がなくなる日

 台風10号、30日に上陸の恐れ…大雨に警戒(2016年8月29日 読売新聞)

 大型で非常に強い台風10号は30日に北日本か関東に上陸する恐れが出てきている。

 台風の平年の上陸数は2・7個だが、10号が上陸すれば今月4個目となり、1954年9月と62年8月の1か月の最多上陸に並ぶ。

 気象庁によると、台風10号は29日午前0時現在、日本列島の南海上を時速約25キロで北東に進んでいる。中心気圧は940ヘクト・パスカルで、中心付近の最大風速は45メートル、最大瞬間風速は65メートル。29日は関東の南東海上を北東に進み、30日は関東の東海上で、北よりに進路を変更するとみられ、暴風域を伴ったまま上陸する恐れがある。

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 十日ほど前に本州の南を西にゆっくりさまよっていたときには,それほど大きくも強くもなかった台風10号「ライオンロック」だが,沖縄東方の南大東島付近まで移動ながら暖かい海からのエネルギーを大量に取り込んで,とうとう大型で強い台風に発達し,しかも関東沖から江川卓が投げるカーブのような軌道を描いて,関東地方から東北地方に上陸しそうな勢いである。

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 これは約十日前の8月20日18時の天気図である。
 台風9号から台風11号の三つがそれぞれに影響し合うほどの距離で日本列島に迫っていた。相互作用する質点の運動の問題は,質点が3点になると途端に難しくなり,厳密解が得られなくなる。三体問題である。

 こりゃ気象庁などで天気予報をする人は大変だろうと思ったが,驚いたことに台風の進路予想はかなり正確だった。

 そして,ひとつだけ残って日本列島の南を迷走していた台風10号も,「迷走」を強調するのは天気予報だけで,その迷走の仕方も含めて,予報円は(予報円が大きいという問題はあったが)どんぴしゃだったように思う。台風10号が暴風域を持って東に移動し始めてからもほぼ予想通りに動いている。

 とうとう迷走台風の進路まで予想できるようになりつつあることを感じさせる出来事だった。「迷走していて明日の進路がわからない台風」がなくなる日も,いずれやってくるに違いない。

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2016年8月28日

カシオが広角端19mmズームのデジカメ発表

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 カシオが35mm判換算で19-95mmに相当(F2.7-6.4)するズームレンズを搭載するコンパクトデジタルカメラ EXILIM EX-ZR4000 を9月9日に発売すると発表した。

 広角端が19mm相当というのは,なかなか魅力的だ。コンパクトデジカメの望遠側にはまったく期待していないので,95mmまで頑張らずに50mm程度に抑えてくれたら,そして広角側を18mmまで(ぜいたくをいえば16mmまで)頑張ってくれたら,もっと魅力的だったのにとも思う。

 そう,実はニコンのDL18-50 f/1.8-2.8を心待ちにしているのだが,6月に予定されていた発売が延期になってしまって,8月が終わろうとする現在でも発売日が未定のままなのである。

 なぜ広角端が18mm,19mm相当のコンパクトデジタルカメラに魅力を感じるのか。私の場合は,旅先に持っていく一眼レフカメラ(ミラーレス含む)のレンズを標準ズーム1本だけにし,広角ズームレンズ代わりに使いたいからである。

 直近の旅行に持ち出したカメラは,

 ・SONY α7S + FE16-35mm F4
 ・Cyber-shot RX100M3 24-70mm F1.8-2.8

という組み合わせだったが,これを逆にしたいのである。

 本格的な写真撮影は標準ズームにして,サブカメラのコンパクトデジタルカメラを広角ズームにすれば,乗り降りした列車やバス,駅の写真を気楽にスナップするときに広角レンズが使える。限界まで引いて建物全体を撮りたい時など,広角レンズは絞って使うことが多いので,センサーサイズの小さなコンパクトカメラでも十分なのだ。

 たとえば,

 ・PENTAX K-1 + D FA24-70mm F2.8
 ・Nikon DL18-50 f/1.8-2.8

 ほら,しっくりくる組み合わせではないか。

 家電メーカーのカメラは買いたくない気持ちもあって(とか言いながら,パナソニックのGF1とかGX1に手を出している),カシオのEXILIM EX-ZR4000にすぐ飛びつくつもりはないが,店頭でいじってみて良さそうだったら買っちゃうかも。色がホワイトとブラックで,個人的にはブラック一択なのだが,カメラ全体がブラックなのではなく,天板と底板やレンズ周りがシルバーなので魅力が半減。ブラック一色のモデルは出ないのだろうか……

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2016年8月25日

北海道の台風被害甚大 石北線復旧に1か月以上

 石北線復旧に1カ月以上 北海道の台風被害(2016.8.24 産経フォト)

 JR北海道は24日、台風11号と9号の上陸に伴う大雨で、石北線の一部で線路下の土砂が流失し、復旧には1カ月以上かかるとの見通しを示した。札幌と網走を結ぶ特急「オホーツク」が通過する区間で、長期の運休が避けられない見通し。
 JR北海道によると、上川町の石北線上川-白滝間で脇を流れる留辺志部川が増水、護岸が壊れ、約40メートルにわたり線路下の土がえぐり取られた。23日には復旧作業のため通過した保線用車両が脱線、作業員3人がけがをした。同社工務部の板東茂己副部長は記者会見で「被害は甚大で最低でも1カ月、月単位の時間がかかる」と説明した。

Dly1608240025p1 〔JR石北本線上川−白滝間で、線路下の土砂が流出した現場=23日、北海道上川町(JR北海道提供)〕

 低気圧からのびた前線により雨が降り続いていた北海道に,台風11号と9号が相次いで上陸したことにより,北海道に大きな被害が発生している。
 JR北海道関係では,1月に高波で線路下の路盤が流出,現在も不通になったままの日高本線では,他の区間でも土砂が流れ込んだり,路盤が流出している。その他にも,釧網線や根室線など19か所で線路に土砂が流れ込んだり,冠水したりする被害が出た。

 さらに,石北本線の上川〜白滝間では線路の横を流れる留辺志部川が増水して路盤の護岸が流されたため,シェード区間で保線用車両が脱線,作業員3人がけがをした。
 この区間は札幌と網走を結ぶ特急「オホーツク」が通過する区間であり,路盤流出の被害は甚大で,最低でも1か月,月単位の時間がかかることから,長期の運休が避けられない。

 厳しい経営状況が続くJR北海道は,すべての路線を維持するのでは資金繰りの破綻は避けられないとして,秋にもJR北海道単独では維持するのが難しい路線の具体名を公表することを発表している。一部路線の廃止やバス転換,上下分離方式への移行は待ったなしの状況である。

 そんなJR北海道にとって,これらの甚大な被害はまさに泣き面に蜂だ。なし崩し的に,抜本的な経営改革が必要になるのではないだろうか。

※ マスメディアのほとんどが「石北線」と記述しているが,国鉄民営化時にJR四国が予讃本線・土讃本線・高徳本線・徳島本線から本線を取って予讃線・土讃線・高徳線・徳島線にしたのとは違い,JR北海道は「本線」を省略していないはずなので,「石北本線」が正しいと考え,記事中では「石北本線」と記述している。

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〔北見駅のホームに停車する石北本線の気動車と北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線(2006年4月廃止)の気動車(2004年8月撮影)〕

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〔北見駅を発車した石北本線網走行きの気動車(2004年8月撮影)〕

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〔石北本線の北見駅に停車するディーゼルカーの中からホームを見る(2004年8月撮影)〕

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〔石北本線北見〜網走間の車窓(2004年8月撮影)〕

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〔網走駅を発車した札幌行き特急「オホーツク」(2004年8月撮影)〕

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2016年8月22日

北海のバスター作戦に見た遠い夏の甲子園

 第98回全国高校野球選手権大会決勝は,栃木の作新学院が北海を7-1で破り,54年ぶり2回目の優勝を果たした。
 甲子園球場に作新学院が登場するだけで,1973年(昭和48年)に怪物江川卓を擁して甲子園の話題をさらったときの作新学院を思い出してしまうのだが……

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 今年の決勝戦で,作新学院の快速球右腕今井達也投手攻略のために北海高校が採ったのはバスター作戦(プッシュ打法)だった。ランナーがいなくても,各打者がバントの構えからミートに徹したバッティングをしたのである。そう,あの怪物江川に対して柳川商(福岡県)が行った作戦だ。思わず40年前を思い出して興奮してしまった。

 柳川商(現在の柳川高校)がそのような奇策を採るほど,江川が投げるボールは凄かった。春の選抜大会では準決勝で広島商に敗れたものの,江川は4試合で60奪三振を記録(2016年現在でも選抜大会の最多奪三振記録として破られていない)。江川から唯一得点した広島商も,打ったのは内野安打とポテンヒットの2安打だけで,ほとんど外野までボールが飛ばなかったのである。

 なにしろ,作新学院が選抜大会に出場を決めた1972年(昭和47年)秋の江川は,関東大会で東農大二高を6回1安打13奪三振無失点,銚子商を9回1安打20奪三振完封,決勝では横浜を9回4安打16奪三振で完封し,通算では110イニング連続無失点を記録したままで甲子園に乗り込んできたのであった。

 さらに,1973年の夏の大会の江川はそれほど調子が良くなかったと言われているが,栃木県大会は5試合中3試合がノーヒットノーラン(うち1試合は完全試合,1試合は三振振り逃げで完全試合を逃している),44イニングで打たれたヒットがわずか2本,75奪三振無失点で,今度は140イニング連続無失点で甲子園にやってきた。

 その連続イニング無失点記録を145イニングで止めたのが,柳川商のバスター作戦である。柳川商は延長15回で江川から7安打で1点を奪い(23三振),作新学院に破れはしたものの鮮烈な記憶を残した。

 高校時代の江川卓のピッチングがいかに圧倒的だったか,平成の怪物と呼ばれている横浜高校の松坂大輔,そして桐光学園の松井裕樹と高校時代の公式戦通算記録を比較してみる。

 江川 44試合 354.0回 103安打 531奪三振 自責点16
 松坂 47試合 379.0回 209安打 423奪三振 自責点47
 松井 37試合 253.2回 144安打 369奪三振 自責点53

 江川が打たれたヒットは松坂大輔の約半分しかない。松坂の通算完封数が13回なのに対して,江川はノーヒットノーランが12回(完全試合2回)。
 普通の好投手が1点取られるのと江川が1本ヒットを打たれるのが同じぐらい,普通の好投手が完封するのと江川がノーヒットノーランを記録するのが同じぐらいの頻度になると考えれば凄さをイメージしやすい。

 そんな怪物江川も,夏の甲子園2回戦の銚子商戦,よく知られている雨の中の延長12回,押し出しサヨナラ負けで甲子園を去った。

 雨を愛する詩人であり野球好きだったサトウハチローは,作新学院−銚子商戦を観戦した後で詩を作った。「雨に散った江川投手」と題するその詩が翌日のスポーツ新聞に掲載された。

雨に散った江川投手  サトウハチロー

雨のために江川投手は
敗戦投手となった
彼のことだから雨をうらんだりはしない
敗けましたと大きくうなづき
深いためいきをもらした

晴天つづきだった今度の大会に
雨が落ちた
それもものすごいどしゃぶりだった
普通なら中止だった
だが延長戦になっていたのでつづけた

天を仰いで応援団は
嘆きと悲しみの底に沈み
ナインの胸にはこの雨が
生涯忘れることの出来ないものとなった
こんな雨は又とない雨だ

甲子園の雨は
ものすごい音がする
わたしはそれをよく知っている
すぎし日にわたしはそれを唄った
わたしはその詩句までおぼえてる

雨に散った江川投手の心に
この日の雨はしみこんだにちがいない
心の底までぬらしたにちがいない
わたしはその姿を目にうかべ
まつ毛をびしょびしょにぬらしていた

わたしは雨を愛した詩人だ
だがわたしは江川投手を愛する故に
この日から雨がきらいになった
わたしは雨をたたえる詩に別れて
雨の詩はもう作らないとこころにきめた

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2016年8月19日

山口百恵は過大評価されているのか?

Momoe

 1980年の引退から35年以上経っても,いまだにメディアに取り上げられる百恵ちゃん。1990年代のCDバブル期でさえ山口百恵のCDが盛大に復刻することはなく,熱烈なファン以外の人々の記憶の中からは,そのまま消えてしまうかと思われていたのに,ここ5年ぐらいについて言えば,むしろメディアに取り上げられる回数が増加している印象さえある。ずっと百恵ちゃんのファンをやっていても驚くばかりである。

 YouTubeをはじめとするネット動画(もちろんその多くは厳密に言えば違法動画)の普及により,現役当時の映像が誰にでも簡単に見られることが,山口百恵の人気復活の引き金になっていることは言うまでもない。

 私は今まで『山口百恵と松田聖子・AKB48を比較する』『ピンク・レディーとAKB48を比較してみた』『オリコン1位が4曲・山口百恵はホントに凄かったの?』などの記事で,当時の山口百恵の人気が,世の中にたくさん存在する「○○曲連続オリコンチャート1位のアーティストたち」と比べても遜色がないばかりか,上回ってさえいるということを書いてきた。

 客観的な数値を元にした比較に徹して,主観に偏らず比較しているつもりではあるが,ブログ記事に「山口百恵は過大評価だ」「オリコンチャートで上位であっても実際の人気は別」というコメントが付いたり,YouTubeで『松本人志「山口百恵はそれほどでもない」 』という動画(音声のみだが)を見たりすると,反論したくなってしまう。

 そこで今回取り上げるのは,集英社の芸能誌『明星』である。ライバル誌だった『平凡』とともに,1970年代には売上げ部数が100万部を越えていた。その『明星』が毎年行っていた人気投票のランキングを比較してみる。人気投票なので,なかなかレコードを買えなかった当時の中高生の人気を反映したランキングになっていると思われる。

10_1978

『明星』誌 紅白人気投票ベストテン推移
〔『明星』の人気投票ランキング(クリックすると拡大)〕

 雑誌『明星』が人気投票を復活したのは1972年で,そこから1980年までのベスト10を抜き出した。Googleで検索したところ,1964年のデータと1982年の中間発表データが見つかったので,それを追記している。
 誌面ではランキング30位まで発表されていて,それがなかなか興味深いのだが(オリビア・ニュートン・ジョンやスージー・クアトロ,キッスが入っている),煩雑になるのでベスト10に限定した。
 ちなみに,山口百恵がデビューした1973年の順位は11位で,惜しくもベスト10に入っていない。

 1972年から1980年までの主なアイドルの人気投票ランキングをグラフ化してみた。

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 雑誌『明星』の人気投票ランキングから言えることを箇条書きする。

・山口百恵の人気はダントツ
・レコードが爆発的に売れたピンク・レディーも2位止まり
 子供に人気=財布を持っている親がレコード購入か
・山口百恵が過大評価というより,桜田淳子が過小評価
・1975年に淳子が百恵を抜くのはオリコン順位と一致
・榊原郁恵と石野真子の人気は(個人的には)予想外
・キャンディーズの人気は安定していた
 「微笑がえし」だけが爆発的に売れたわけではない
・白組の新御三家の人気は盤石(特に郷ひろみ)
・三浦友和の順位が高いことにびっくり
 1975年から18位→4位→2位→7位→13位→16位

■ 結論

 山口百恵は1980年の引退時点でレコードを一番多く売った歌手であるだけでなく,現役当時からアイドル的な人気も高かった。引退を発表して人気が盛り上がったのでもなく,引退後にメディアに登場しないから神格化されているのでもない。

 ブログにコメントをいただいたように,1970年代の人気はオリコンランキングだけで測ることはできない。当時はレコードが高価で中高生が気楽に買えるものではなかった。だからみんなラジオの音楽番組で好きな曲を必死でエアーチェックし,カセットテープに録音して繰り返し聴いた。

 レコードやカセットテープを聴くためにはレコードプレーヤーやカセットデッキが必要で,歌謡曲は室内で聴くものだったし,テレビで見るものだった。テレビでは生バンドによる生演奏で歌手が歌う姿を見ることができたし,贅沢なことに当時は生放送も多かったので,ライブと同様の臨場感や緊張感も感じることができた。ミュージックDVDを買ったりしなくても,テレビでそれを楽しめたのである。

 ソニーが初代ウォークマンを発売したのは1979年であり,レコードの音楽をカセットテープに入れて外で聴くことが一般的になったのは,1980年代になってからである。街に貸しレコード店が一気に増え,1982年にはCDが登場。カセットテープにダビングして聴く環境が整ったことで,レコードやCDの売上げは爆発的に増加した。そんな時代と1970年代をレコードの売上げ枚数で比較することはできない。

 雑誌の人気投票ランキングで当時の人気がすべて判断できるわけではない。しかし,当時のデータを少しでも多く集めれば,忘れられつつある当時の様子が少しずつ見えてくることもまた確かである。

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2016年8月16日

オリンピック生中継の臨場感と映画の映像美

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 リオデジャネイロ・オリンピックの日程も終盤に入り,すっかり寝不足の毎日である。そんなオリンピック三昧の中,日本映画専門チャンネルで映画『時よとまれ 君は美しい ミュンヘンの17日 (VISIONS OF EIGHT)』が放送された。

 映画『時よとまれ 君は美しい ミュンヘンの17日 (VISIONS OF EIGHT)』は,市川崑をはじめとして世界を代表する8人の映画監督がオムニバス形式で映像美の極地に挑んだミュンヘン・オリンピックの公式ドキュメンタリー映画で,1973年のゴールデングローブ最優秀ドキュメンタリー賞の受賞作品でもある。

 ミュンヘン・オリンピックは,個人的には,体操の塚原光男の鉄棒の下り技「月面宙返り(ムーンサルト)」と,パレスチナゲリラによる選手村襲撃の悲劇「黒い九月事件」が強く印象に残る大会だった。

 ジョン・シュレシンジャー監督が担当した最後の章「最も長い闘い(マラソン)」には選手村の悲劇も描かれている。

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 市川崑が担当した陸上男子100mでは,走る選手を正面からとらえる。一列に並んだ選手が一斉にこちら側に向かって走ってくるシーンは,テレビの映像では見ることはなく,迫力がある。
 映画全体が,まさに「時よとまれ 君は美しい」という映像美で埋め尽くされている。

 しかしながら,今現在,リオデジャネイロ・オリンピックの生中継のライブ映像を見ていると,やっぱりリアルタイムの映像は,リアルタイムならではの緊張感というか緊迫感というか,手に汗握る魅力にあふれている。何が起こるかわからない臨場感は,名監督が構成する映像美をはるかに上回る迫力がある。

 生中継の映像は,眠い目をこすりながらでも見る価値があると断言できる。

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2016年8月11日

青春18きっぷと途中下車はどっちが得か?

 夏休み前になると「青春18きっぷで旅をしたいのでアドバイスがほしい」と訊ねられることが多い。青春18きっぷが“JR全線が乗り放題”であるところが魅力で,“気ままな旅”がしてみたいらしい。

 訪ねた人に「普通乗車券の“途中下車”という仕組みを知っているか?」と聞いてみると,どうも知らない人のほうが多いようだ。普通の切符でも列車の乗り降りは自由なんですよというとびっくりされる。普段利用する片道100km未満の切符に“下車前途無効”と書かれているように,どこまでの切符であっても途中の駅で改札を出てしまうと,そこから先は切符を買い直さなければならないと思っている人が多いのである。

■「青春18きっぷ」と「普通乗車券での途中下車」はどっちが得か?

 東京から静岡まで行くときに熱海までの切符を買って,熱海で一旦下車して昼食を食べて,熱海駅で静岡までの切符を買って静岡に行った場合,熱海で「途中下車」したことにはならない。熱海で「下車」したのである。
 同様に,熱海駅で時間があったからホームに降りて立ち食いソバを食べたとしても,それは「途中下車」とは言わない。

 途中下車はとてもよく知られている言葉だが,正確な意味で使われているとはいえない状態だ。途中下車とは,簡単に言えば「乗車券の有効期間内なら,途中駅で改札の外に出た後にまた改札内に入り,乗車券に記載してある区間を後戻りしないで旅を継続することができる」という仕組みである。

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〔津山から姫新線・伯備線・芸備線・山陽線経由で岡山までの普通乗車券。わずか3260円で有効期間は4日間〕

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〔姫路〜福岡市内の普通乗車券。有効期間は4日間〕

 片道100km以上の乗車券であれば,200kmまでなら有効期間は2日,400kmまでなら3日間,600kmまでなら4日間,800kmまでなら5日間となる。たとえば東京から姫路までの普通乗車券は9830円で,駅間営業距離が644.3kmだから有効期間は5日間ある。9830円で青春18きっぷを目一杯使ったときと同じ5日間の旅ができることになる。
 東京都区内から姫路までの駅で何度でも途中下車ができる。乗車券に記載してある区間なら乗り降り自由だ。

 たとえば熱海と名古屋と京都と姫路で途中下車して宿泊することもできるし,時間さえあれば(東京駅からの切符なら発駅が「東京都区内」となるため,東京都区内では途中下車できないが),東海道本線の全駅で途中下車することだって可能だ。途中で少ししか列車に乗らない一日があっても,青春18きっぷを使った旅のように損をした気がしない。
 さらに,途中の区間で新幹線を使っても,青春18きっぷのようにその区間の乗車券まで買う必要はなく,特急料金を追加するだけで済む。

 以前にもちょっと書いたが,私は以下のような理由で「青春18きっぷ」は世間で言われているほど自由な切符ではないと思っている。

・各駅停車(快速列車含む)にしか乗れない
・途中で特急や新幹線に乗ると,その区間の乗車券も必要になる
・少ししか列車に乗らない日があると損した気分になる
・元を取ろうとして,一日中乗りっぱなしの行程になりがち
・乗る列車が限定される区間では,異常に混雑することがある
・切符発売開始当時には存在した夜行列車はほとんど走っていない
・ローカル線では事前にしっかり計画を立てないと悲惨な目に遭う
・利用期間が限定される

 青春18きっぷの一日分2370円でどこまで乗れるか,列車の本数の少ないローカル線ではなく,たとえば東海道本線や山陽本線,東北本線で遠くまで行きたいというのが目的の旅,普通乗車券ならば1万円以上かかる区間を2370円で済ます旅ならば,そりゃ青春18きっぷにかなうものはない。

 しかし,「乗り降りが自由な切符」ならば,普通乗車券でも途中下車は自由だし,疲れたりして途中で特急に乗っても特急料金だけの追加で済む(青春18きっぷの場合は特急料金の他に乗車券も必要)なら普通乗車券のほうが融通が利くようにも思えてくる。

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〔車内で区間変更してもらったときの切符の例〕

 行先の決まった普通乗車券でも,途中で行先を変えたくなったら車内や駅で「区間変更」してもらえばいい。不足分を支払えばいいし,未使用区間が長ければ(101km以上ある場合)は払い戻ししてもらえる。

 そこで,青春18きっぷを使った現実的な5日間の旅の日程を具体的に考え,その行程を普通乗車券(一筆書き切符)で旅した場合との支払金額を比較してみることにする。


■ ケース1:

 東京出発,富士急ハイランド・昇仙峡・諏訪湖・飯田線・大井川鐵道を堪能する4泊5日の旅

 一日目:
  東京駅出発,中央本線で大月へ
   富士急に乗り(運賃は別途),富士急ハイランドで遊ぶ。
  大月から中央本線で石和温泉へ。宿泊

 二日目:
  石和温泉から中央本線に乗り甲府へ
   甲府からバス(運賃は別途)で昇仙峡へ
   甲府駅に戻り,信玄餅とほうとう,鳥もつ煮を食う
  甲府から中央本線で上諏訪へ。上諏訪温泉に宿泊

 三日目:
  上諏訪から中央本線に乗り下諏訪へ
   諏訪大社下社秋宮参拝
  下諏訪から中央本線で岡谷へ
  岡谷から中央本線経由の飯田線に乗り伊那市へ
   伊那市名物のローメンを食う。伊那市の劇シブ商店街
  伊那市から飯田線に乗り飯田へ。宿泊

 四日目:
  飯田から飯田線に乗り天竜峡へ
   天竜峡の渓谷,吊り橋で震え,天竜峡温泉
  天竜峡から飯田線に乗り豊橋へ
   豊橋で豊橋鉄道東田本線の路面電車に乗る。宿泊

 五日目:
  豊橋から東海道本線に乗り金谷へ
   金谷で大井川鐵道に乗る(運賃は別途)
  金谷から東海道本線で清水へ
   清水魚市場でまぐろ丼を食い,土産物に干物を買い込む
  清水から東海道本線で東京へ帰還

 ケース1での青春18きっぷと普通乗車券の比較……
・青春18きっぷ:5日間 11850円
・普通乗車券:有効期間5日間 11880円(乗車距離 688.3km)
〔東京都区内発 中央線・辰野・飯田・豊橋・東海道線経由東京都区内行き〕

 ケース1の場合,青春18きっぷのほうが30円安上がりとなる。

 ただし,中央本線や飯田線で特急に乗ったり,豊橋から東京までのどこかで新幹線を使うと,青春18きっぷの場合はその区間の乗車券が別途必要になる分だけ高くなる。その場合は普通乗車券を買って途中下車を繰り返すほうが安上がりとなる。

 青春18きっぷが使用できる期間,東海道本線は混雑することが多く,金谷や清水から乗ると座れない可能性もある。浜松や静岡始発の列車を利用して確実に座るという手段もあるが,旅も五日目になると疲れもたまり,指定席を確保できる新幹線を使いたくなることもある。「こだま」なら自由席でも余裕で座れる。それをあらかじめ考慮すると,わずか30円の差ならば普通乗車券を買っておいたほうがお得感がある。

※ 東京都区内発〜東京都区内着のような複雑な乗車券は,面倒くさそうに発券する駅員さんと,嬉しそうに発券してくれる駅員さんがいる。また,慣れない駅員さんだと発券に時間が掛かり,混雑するみどりの窓口だと迷惑になるので注意が必要である。


■ ケース2:

 静岡出発。東海道本線・山陽本線で広島まで4泊5日の旅
  単純化のため片道の旅とする
  大垣と相生のダッシュは嫌なので新幹線でワープする

 一日目:
  静岡から東海道本線に乗り金谷へ
   金谷で大井川鐵道に乗る
  金谷から東海道本線で浜松へ
   浜松でうなぎを食べる
  浜松から東海道本線で豊橋へ
   豊橋で豊橋鉄道東田本線の路面電車に乗る
  豊橋から東海道本線で名古屋へ。宿泊

 二日目:
  大垣ダッシュを避けるため名古屋から米原まで新幹線ワープ
  (乗車距離79.9km:乗車券1320円,新幹線自由席1730円)
   青春18きっぷの場合3050円,普通乗車券の場合1730円かかる
  もしくは,名古屋から米原まで特急「しらさぎ」でワープ
  (乗車距離79.9km:乗車券1320円,特急券自由席1180円)
   青春18きっぷの場合2500円,普通乗車券の場合1180円かかる
  米原から東海道本線に乗り彦根,近江八幡,石山で途中下車
   彦根で彦根城散策
   近江八幡で八幡堀を散策
   石山で京阪石山坂本線に乗り石山寺へ
  石山から東海道本線で京都へ。宿泊

 三日目:
  京都駅から地下鉄烏丸線と阪急京都線で河原町へ
   木屋町通り・先斗町や祇園を歩き八坂神社参拝
   あるいは寺町京極,新京極から錦市場を歩く
  京都駅に戻り,東海道本線で大阪へ
  地下鉄御堂筋線で難波へ
   なんば道頓堀で食い倒れ
  大阪駅へ戻り,東海道本線で三宮へ
  三宮からポートライナーでポートアイランドへ。宿泊

 四日目:
  ポートライナーで三宮へ
  三宮から東海道・山陽本線で明石へ
   明石城趾を見て,玉子焼(たこ焼き)を食う
  明石から山陽本線で姫路へ
   国宝の姫路城(白鷺城)を見る
  相生ダッシュを避けるため姫路から岡山まで新幹線でワープ
  (乗車距離88.6km:乗車券1490円,新幹線自由席1730円)
   青春18きっぷの場合3220円,普通乗車券の場合1730円かかる
  岡山で宿泊

 五日目:
  岡山から山陽本線で倉敷へ
   倉敷美観地区(重伝建地区)を見て歩く
  倉敷から山陽本線で福山へ
   福山からバスで鞆町へ。重伝建地区と鞆の浦を見る
  福山から山陽本線で広島へ

 ケース2での青春18きっぷと普通乗車券の比較……
 (米原と相生を新幹線でワープした場合)
・青春18きっぷ:5日間 11850円+3050円+3220円=18120円
・普通乗車券:有効期間5日間 10150円(乗車距離 714.0km)
               +1730×2=13610円
 〔普通乗車券は地方交通線割増しのあるケース1より安い〕

 米原ダッシュや相生ダッシュをしなくても,列車を1本見送れば楽に座れる。新幹線なんか使わなくても十分という考え方もできる。しかし,列車に乗りまくるのが目的ではなく,旅の移動手段として列車を使おうとする場合,青春18きっぷのアドバンテージはそれほど大きくない。


■ 結論

 青春18きっぷを使えば,一日分の2370円で東京から小倉まで乗り続けることもできる。まる一日,苦行のような列車の旅も,それはそれで楽しいかもしれない。でも,ほとんどがロングシートで車窓を楽しめない。ローカル線の列車本数は少ないし,JRから第三セクター鉄道になった区間も多く,残りの四日分も同様に乗りまくるのは難しい。

 学生時代には東京から九州ワイド周遊券で使い,大垣行きの夜行に乗り,そのまま西への各駅停車に乗り続け,北九州の門司からはさらに夜行急行に乗り換えて,翌朝に西鹿児島まで乗り続ける旅をしたこともある。青函トンネル開通後の北海道ワイド周遊券の旅も尻が痛かった。当時は夜行急行も多かったので,2週間から3週間,旅館を利用せずに走る列車の中で寝るという,周遊券だけの貧乏旅行をすることも可能だった。

 しかし,鉄道をめぐる環境は大きく変わっている。安価な旅ができた夜行列車はなくなり,長距離を走る普通列車もなくなった。面倒な乗り換えが多くなり,旅に水を差す。ローカル線は1〜2両編成の列車ばかりになり,驚くほど混雑する列車もある。落ち着いて列車に乗ることができにくくなっている。

 ロングシートの車両が多くなり,車窓を楽しむことが難しくなった。ロングシートでは列車内で駅弁を食べることもできない。次々と移り変わる車窓を楽しみながら駅弁を食べるという,鉄道旅行の醍醐味が味わえないのは悲しい。

 鉄道会社が,列車を「移動手段」として最適化しようと努力した結果,青春18きっぷで満喫できるはずの“鉄道旅行の楽しさ”が失われつつある。残念ながら青春18きっぷは「自由を満喫できる魔法の切符」ではない。

(注釈)JRの料金計算は地方交通線割増があって複雑であるため,同経路の乗車券を買ったときには金額が多少違っている可能性がある。

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